第18話

第1の被害者である杉原理恵が緑ヶ丘に住む直前に暮らしていたマンションは船橋にあった。

管理会社に電話をすると、古い住人の名簿は本社にあるというので、西船橋にある管理会社の本社に向かった。

西船橋駅の海側のほうに駅からやや離れた場所にあるビルの5階にその会社はあった。

対応したのは管理会社の課長だった。

すぐにデーターで保管してある杉原理恵のを見せてもらった。

賃貸で借りていたようだった。

夫婦と子供ふたりで暮らしていたようだった。

14年前の夏に転居し、1年で緑ヶ丘に一戸建てを買って引越したのだろうと推測された。

あくまでも仮住まいだったのだろう。

念のため当時のほかの住人のコピーを取らしてもらい、深津たちはその会社を後にした。


次に向かったのは石橋薫の転居先の東京のマンションだった。

墨田区にあるそのマンションについたのは千葉を出てから1時間後だった。

新大橋通りに面した12階建ての大きなマンションだった。

そこには常駐の管理人室があった。

過去の住人のデーターもあるということだったので閲覧させてもらうと、そこには石橋薫の文字があった。

ひとり住まいだった。

彼女は独身だったのか。

深津は大きなミスをしたことに気が付いた。

15年前高校生の殺人事件の目撃者3人は事件が起きたのが午後4時すぎだったので、その時間に自宅いたのだろうから家族で住んでいるものと決め付けていたのと、石橋薫はまだ事件に巻き込まれていないので、身辺調査をしていなかったことを思い出した。

「石橋が次の被害者になるんじゃないか」

「そうですよ、深さん。目撃者3人に恨みを持っている人間の犯行ですよこれは」

深津はあわてて捜査本部に連絡を入れた。


石橋薫は墨田区のマンションに2年いた。

杉原と同じように賃貸でマンションを借りていたのだ。

「杉原理恵と石橋薫は事件後も交流があったのでしょうか」

「多分な」

「もうひとりの奥山奈津子はどうだったんでしょうか」

「奥山奈津子だけが郵便の転送手続きをしていないですよね」

「そこが謎だよな。でも役所に行った班の連中が転居先を突き止めるさ」

墨田区のマンションの管理記録には転居先までは書かれていなかった。

当時の他の住人のデーターをコピーしてもらい、マンションをあとにして、区役所の出張所に行って住民登録を見て、石橋薫の転居先を探った。

「見てください」

「本当だ」

ふたりは驚愕していた。

石橋薫が転居したのは緑ヶ丘住宅の3丁目のアパートだった。

「3人は事件後も繋がっていたんでしょうか」

「間違いないな」

「そうなると石橋薫が次のターゲットになりますね」

「そうだ、すぐに本部に連絡して石橋薫を保護するように連絡しろ」

「はい」


深津は首都高速に乗り、緑ヶ丘に急いだ。

本部から連絡を受けた西三郷署の地域課のPK(パトカー)はすぐに石橋薫のアパートに着いた。

周りは瀟洒な一戸建てが続く住宅街に、外見では引けをとらないしゃれたアパートだった。

石橋の部屋は2階にある。

警察官は階段を昇ってドアをノックした。

反応はなかった。

チャイムを何回鳴らしても反応はない。

アパートの前に管理会社の電話番号が書かれた看板があったので、そこに連絡を入れると石橋薫は、丸西保険の三郷営業所で働いていることになっている。

電話番号を聞いて電話してみると石橋薫が電話に出た。

「こちら西三郷署のものですが、石橋さんの身辺警護をするように指示されています。何時に退社されますか」

「いきなり何ですか」

「詳しいことはお会いしてからお話します」


深津は石橋薫の健在が確認されたことに安堵して少しクルマのスピードを落とした。

首都高速の道路灯がオレンジ色の光を放っていた。

下りなのでほとんどクルマがいない。

反対の昇りは小菅から加平までびっしりとクルマが詰まっていた。

深津たちが緑ヶ丘住宅に着いたのは午後6時すぎになっていた。





#19に続く。




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