第17話
緑ヶ丘住宅で起きた連続殺人事件の捜査はまだ進展していなかったが、ぽちぽちと犯人の臭いを嗅げる位置に近づいたように西三郷署の深津は感じていた。
15年前に起きた高校生殺人事件に絡んでいた第1の被害者である杉原理恵はこの事件の発見者であり、その後の行動によって殺された高校生の親に恨まれていたようであった。
同じマンションに住んでいた高校生の親は合田博幸と合田都、死んだ男子高校生の名前は合田真平といった。
合田家族は一人息子の死で完全に壊れてしまった。
第一発見者の杉原理恵がすぐに救急車を呼ばなかったことを恨んで執拗に杉原を攻め立てた。
警察沙汰になるほどに同じマンションで異常な行動を繰り返したので、合田の奥さんはしばらくして鉄道に身投げ自殺し、怒りの鬼になっていた合田博幸は事件後1年でどこかに引越したのだった。
その日、深津と生駒は12年前まで杉原理恵が住んでいたさいたま市のマンションに来ていた。
管理組合の会長のところに来て、話や資料を見せてもらうためだった。
管理組合の記録によれば、合田博幸の移転先は東京都になっっており、それ以上の詳しい住所は分からなかった。高校生殺人事件の目撃者は他にも1階の住人だったふたりがいた。
ひとりは石橋薫といい、もうひとりは奥山奈津子という名前だった。
奥山奈津子、深津は驚愕した。
「この人は第2の被害者じゃないか」
「確かに同じ名前ですね」
深津と生駒は顔を見合わせた。
「偶然ではないような気がしますね」
「当たり前だろ。もしこれがガイシャなら同一犯なのは確定だ」
「つまり、15年前に起きた高校生殺人事件が緑ヶ丘住宅の連続殺人の根本だということですね」
もうひとりの目撃者は石橋薫という名前だった。
石橋も事件のあとすぐに千葉県に転居している。
「高校生殺人事件の目撃者3人はいずれも転居していますね」
「そうですね、あんな嫌な事件の関係者になったことですし、合田さんからあのように攻め立てられたら住んではいられないですよ、ひとり息子さんを殺された合田さんには同情しますが、憎い矛先が犯人ではなくて、目撃者になったことが理解できないです」
「合田さんにしてみれば早く救急車を呼んでくれたら命が助かったかも知れないという思いが強かったのでしょう」
「確かにそうなのですがね。不幸なことですよ」
管理組合の会長は苦渋の顔つきになり、これ以上もう聞かないでくれという表情に変わった。
深津たちは管理組合の会長の部屋を後にして、まず最寄の郵便局の本局に向かった。10年以上前のことだが、事件の関係者たちが転居したさいに、転送願いの手続きをしていればその記録をたどれば現住所が分かるかも知れないと思ったほどだった。
生駒はクルマに乗るとすぐに捜査本部に電話をした。
第2の被害者も第1の被害者と同じマンションの住人だったことと、事件の根幹が15年前に起きた高校生殺人事件である可能性が高いのではないかという報告をした。本部で電話に出た管理官はすぐに転居した目撃者の追跡に応援を送るように指示して、マンションの所轄に協力を仰いだ。
郵便局では、杉原理恵と石橋薫が転送手続きをしており、転居先が分かった。
杉原は千葉県の船橋市の船橋駅の近くのマンションだった。
石橋薫は東京都文京区の駒込だった。
住所からは一軒家のようだった。
深津たちはまず千葉県船橋に向かった。
高速は夕方のラッシュ時になり、船橋まで1時間以上かかった。駅前の時間貸しパーキングにクルマを停めてマンションまで歩く。JRと京成線の二つの駅があり、駅ビルにデパートが隣接して大きな駅前だった。
JRの船橋駅を南に歩いていくと、すぐに京成線の線路があり踏み切りがある。
どことなくその風情が下町っぽい。
横丁には飲み屋などの飲食店が連なっていた。
数分歩くとそのマンションはあった。1階にはカフェやラーメン店がテナントになっていて、その上に10階が住居になっている都心型のマンションであった。
午後6時過ぎだったので、ラーメン店には人が満席になるほどにぎわっていた。
建物の横にあるエントランスを入ると管理事務所があったが、もう誰もいなかった。窓には管理会社の電話番号が書いてあったので深津はそこに電話をした。
#18に続く。
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