第16話

第2の被害者が出てしまった。

警察としては一番恐れていた事態が起きてしまって、県警本部は大騒ぎになった。

しかも、普段は静かな住宅街で起きたのだから「警察は何をやっているのだ」という世論が高まった。

犯人逮捕どころか、第1の事件の動機もまだ分からない段階で第2の事件が起きてしまったのだから警察としてはお手上げだった。

捜査本部には通常県警の捜査一課の管理官が本部長として詰めるのだが、第2の事件が起きたことを受けて県警トップの本部長が捜査本部の責任者として所轄に詰めるという異例の事態になった。

西三郷署の深津たちは被害者の以前に住んでいたマンションの住人の追跡で出ずっぱりだった。

いっぽう第2の事件の被害者である奥山奈津子の葬儀に来ていた人たちに片端から話を聞くために本署の捜査1課と所轄の刑事課、さらに生活安全課の刑事までも動員して捜査に当たっていた。


河野はある主婦に話を聞いていた。

「奥山さんご夫婦は仲が良かったんですか」

「普通だったと思いますよ。お子さんがふたりいて、子供が同じ年頃だったので、小学校、中学校とご一緒しましたけど、仲はよさそうでしたよ」

「最近ではどうですか」

「旦那さんも定年になって、悠々自適に楽しんでいらして、奥様は自治会の役員もされていましたし、どう考えても普通のおうちですよ」

その他にも何人もの近所の人に話しを聞いたが、夫婦の間に何らかのトラブルがあったかどうかの情報は得られなかった。


「夫を容疑者からは外したほうが良さそうですね」

生駒が聞き込みに疲れたのか、上半身を前に伸ばしながら言った。

「捜査はあらゆる方向でやらなければならないよ。予断はダメだぞ」

「しかし今は夫に容疑が向いていると思いますけど」

「今はな。夫が完全に容疑から外れればそれはそれだよ」

「深さんはどう思いますか」

「根本的に第2の事件とつながりがあるかどうかで状況が変わってくるよな。つながりがあるということは同じホシの犯行となる可能性が高いよな。逆に関連性がないとなればひとつひとつの事件の背景が違うということになる」

「でもこれだけ短期間に事件が重なったというのはやはりつながりがあるということなのではないかと自分は考えます」

「多分お前の考えるとおりだと俺も思うが、まずは夫の捜査を終わらせよう」

「分かりました」


葬儀に集まった人からだいたいの話を聞き、その報告を捜査会議で各捜査員からなされたが、とりあえずその段階では夫婦間でのトラブルは無かったようだと結論付けられた。

夫にも明確なアリバイがあり、捜査線上からは夫はとりあえず消えていた。

そうなると、第1の事件との関連性はクローズアップされることになった。

第1の事件の捜査を担当している深津たちが現状を報告し、本部長からはその捜査を継続することと、本部の捜査1課の刑事たちも動員してさらに第1の事件の捜査に傾注させることにした。

捜査方針が決まったあとに、西三郷署の刑事から他の事件の報告がなされた。

緑ヶ丘住宅の5丁目に住んでいる高校生が公園で怪しい男を目撃したこと、さらに次の日には怪しい男が高校生の家を見張っていたことが報告されると捜査本部は騒然となった。

「それは重大な事案じゃないか。なぜもっと早く報告しないんだ」

県警本部の捜査1課の管理官が叫んだ。

「高校生の家に人を張り付かせているのですが、その後何もなく、事件に関係があるかどうかということが分かりませんでしたし、その後怪しい男は目撃されていませんので」

「高校生のほかににはその怪しい男の目撃者はいないのだな」

「はい、まだいません」

「それじゃあダメだ。もっと人員を動員して怪しい男の目撃者探しをしろ。それと、高校生に聞いて似顔絵を作って周辺の家にばら撒け」

管理官は声を荒げた。

それを制するように本部長が発言した。

「周辺住民を不安に陥れるようなことをするな。似顔絵は捜査員が持参して見せるだけにしろ」

管理官は不満気な表情をしていた。


深津たちは、第1の被害者の元同僚から聞いたトラブルについて、翌日から応援を加えて10人体制で捜査を行うことにして、その日は所轄の体育館で就寝についた。




#17に続く。





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