第13話
西三郷署の深津と生駒は、被害者の以前の住所を訪ねたがほとんど成果らしきものはなかった。
被害者の夫が定年まで勤めた三津谷電気まで行ったのだが、そこでも有力な話は聞けなかった。
そこで元同僚の連絡先をもらって、所轄に戻りしらみつぶしに連絡をして何とか情報を得ようとしていた。
10数人に電話をして話して、深津は少し休憩していたときだった。
となりのデスクで電話をしていた生駒が興奮気味な声を出した。
「そうですか、ではこれから伺います」
「どうした」
「以前杉原さんと同じセクションで働いていた人なんですけど、かなり付き合いが深かったそうで、15年くらい前に住んでいるマンションでトラブルがあったそうなのです。その件で杉原さんの旦那さんはひどく悩んでいて、よくぼやいていたそうなのですよ」
「どこに住んでいるんだ」
「江戸川区の西葛西だそうです」
「高速を使えばすぐに行けるな」
ふたりはクルマを飛ばして江戸川区に着いた。
インターを出ると葛西臨海公園があり、川を挟んで千葉側には東京ディズニーランドが見える。
西葛西駅に向かう途中にマンションが何棟も並んでいた。
住所はそこにあるマンションだった。
駐車場がなさそうだったので、近くの交番の前に停めさせてもらって徒歩で向かった。
元同僚は勝見という70歳の男性だった。
13階建てのマンションが何棟も並んでいるうちの1棟が勝見が住んでいるマンションだった。
7階までエレベーターを使い勝見の部屋の前まで来て、チャイムを鳴らした。なかからは夫人らしき年配の女性の声がした。
「どうぞお入りください」
勝見は奥のリビングのソファに座っていた。
深津たちが部屋に入って来ると立ち上がって迎えいれた。
深津たちは勝見の正面のソファに座った。
「杉原さんの奥さんが亡くなられたのですね」
「そうです、その件で捜査をしていまして」
「強盗とかではなくて何らかの恨みとかが原因なのでしょうか」
「それはまだ分かりません。我々の言葉で流しか怨恨かということでうが、私たちは怨恨の線で捜査をしているというわけです」
「それで以前に住んでいたところに行ったわけなのですね」
「そうです。それで15年前のトラブルについてお話いただけるでしょうか」
「杉原さんの住んでいるマンションの住人の子供さんがマンションの前で死んでいたというんです。喧嘩かなんかで殺されたんですが、息子さんが倒れているのを杉原さんの奥さんとか1階の住人の人とかが発見したそうなのですが、すぐに救急車を呼ばなかったというんですね。交番がすぐ側にあるので、杉原さんの奥さんがそこに走ったというのですが、そのほかの1階の住人の人はそのまま見ていただけで、交番の警官がやってきてやっと救急車を呼んだんですが、ちょうど道路が混んでいる時間で到着まで30分かかり着いたときには心配停止だったということだったんです」
「結局亡くなったのですか」
「それで、亡くなった中学生の親が杉原さんたちに怒りまして、とくに父親が激しくて杉原さんの家のドアを蹴飛ばしたりして、警察沙汰になるほどだったんです」
「しかし杉原さんは交番に行っただけですよね」
「杉原さんの奥さんは当時管理組合の役員をしていて防犯の係りをしていたんですね。それなのになぜ救命を優先しなかったのだということだったらしいんです。結局、警察沙汰になってから大人しくなったそうなのですが、杉原さんの奥さんは大変真面目な人でそのことで悩んでしまって、うつになったそうなんです。家事も出来なくなるくらいだったそうです」
「殺人事件は解決したのですか」
「不良グループの仲たがいだったそうで、犯人はすぐに捕まったそうなのですが、中学生ですからたいした罪に問われることもなかったらしいんですね。それで怒りの矛先が杉原さんの奥さんに向かったようなのです」
深津たちは1時間ほどいて、帰りの途についた。
「ホンボシは息子が殺された夫婦なような気がします」
生駒はクルマのハンドルを握りながら確信したような顔をしていた。
「まだ分からないな。とにかく明日また埼玉のマンションに行ってみよう」
ふたりが所轄に戻ったのは午後7時過ぎだった。
#14に続く。
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