第14話
深津たちは被害者の杉原夫人が住んでいた埼玉のマンションに再度訪れていた。
管理組合会長の話を再度聞くためだった。
15年前にマンションの前の道路で起こった事件についてだった。
「あのときは大変でした。警察が毎日どころか一日に何回もやってきて、普通の生活が出来なかったです」
「殺されたのは高校生だったとか」
「荻野さんのところの息子さんです」
「不良同士の喧嘩だったそうですね」
「私はそのころはまだ勤め人だったし、女房も勤めていましたのでリアルタイムでは見ていないのですが、事件を見た人の話では金属バットでぼこぼこにされていたということだったのです」
「その事件に杉原さんが絡んでいたということだったのですが」
「それはどういうことですか」
「杉原さんとか1階の住人の人が道路に横たわった高校生を放置したとうことを聞いたのです」
管理組合の会長の福田は困惑したような顔をした。
「放置というか、杉原さんはすぐそばの交番に走ったんです。他の人はお巡りさんが来るのを待っていたということだったと思いますが」
「誰もすぐに救急車を呼ばなかったとか」
「それはそうですが」
「殺された高校生の親は、見殺しにしたと怒りの矛先を杉原さんたちに向けられたということですが、本当ですか」
福田は苦しい表情をした。
「確かにそれはありました。悲しい出来事でしたね。杉原さんも他の人も気が動転していたのでしょう。特に杉原さんは必死になって交番に助けを求めたので罪はないと思うのですが」
「他の1階の人には罪があるということですか」
「罪とは思いませんけど、確かにすぐに救急車を読んだら助かったかも知れないという可能性はゼロではないと思ったのを記憶しています」
「殺された高校生の親の攻撃は主に杉原さんだったのですか」
「そうですね、でも他の人にもやられてましたよ」
「どんなことをですか」
「ドアを蹴飛ばすとか、ドアをたたいて怒鳴りまくるとかですね」
「警察沙汰にもなったりしたのですか」
「そうですね、杉原さんのご主人に殴りかかったとかありましたね」
「殺された高校生の両親はここにまだ住んで意いるのですか」
「いや、そんなことがありましたからその事件の半年後には引越しました」
「どこに越されたのか知らないですか」
「私は分かりません」
「杉原さんもその後に引っ越されたんですよね」
「杉原さんは一戸建てを買ったんです。ですが、殺された高校生の親は賃貸だったんですよ。だから部屋を貸しているオーナーさんも出来れば転居して欲しいと伝えたんですよね」
「事件を目撃した人はまだ住んでいるのですか」
「もういません」
「名前を教えていただけますか」
深津たちは1階の住人で事件を目撃したふたりの住人の名前を教えてもらった。
高校生の息子を殺された親も含めて住民登録で現在の所在地を追うことになるからだった。
「しかし、事件に関係した全員の家族がこのマンションからいなくなったということですよね。変わった事件ですよね」
「犯人は捕まっているし、これは高校生の殺人事件のほかにもうひとつの事件があったといってもいいようなことだな」
深津と生駒はマンションの地域の市役所に向かった。
住民票を追って現在の住所を調べようというわけだ。
現在では個人情報保護の目的で、簡単に他人の住民票を見たり取ったりすることは出来ない。
だが、殺人事件の捜査となれば役所は協力しなければならない。
まず最初に調べたのは息子を殺された家族の転居先を調べた。
荻野夫婦は同じさいたま市のアパートに引越していた。だが、その数年後にはまた転居していた。
東京都に住所が移っている。
台東区のマンションだった。
その後の住民登録を追うには東京に行かなければならない。
その他の事件の目撃者らの住民登録も調べたが、ひとりは千葉県に転居し、もうひとりは東京に転居していた。
#15に続く。
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