第12話
緑ヶ丘住宅の自治会長春田政宏は、警察からの要請を受けて臨時の役員会を行うことにして、自治会館に午前10時に召集をかけた。
役員のなかには働いている人も多いので、結局集まったのは全役員10人のうち4人だけだった。
副会長の井村、5丁目の役員と防犯委員の役員のふたりだけだった。
5丁目で起きた事件なので、5丁目の役員が出てきてくれたことはありがたかった。臨時の役員会には所轄の生活安全課の課長も出席していた。
「地域の防犯は生活安全課の役目ですけれど、今は事件の捜査中ですので、捜査状況の仔細についてはお話できませんので了承してください」という話をした。
では何で来たのかと言えば、もし緑ヶ丘住宅の住人が犯人である場合、また事件を起こす可能性もあるので、防犯パトロールの強化とかの要請と、事件にかかわるなんらかの情報があるかも知れないという警察側の思惑だったからだ。
「防犯パトロールと見守り隊の活動は子供たちの登下校時間にあわせていますが、今後毎日午前中に2回と午後に2回行うというのはどうでしょうか」
防犯委員の室井が発言した。
室井はこういう集まりがあると必ず発言し、自治会活動に積極的な人物だった。
室井は定年まで大手の商社に営業の第一線で活躍していた人物で、自治会でも対外的な交渉には秀でたものがあり、頼りにされている存在だった。
だが、向こう気が強すぎる傾向があり、強引なやり方に反発する人も多かった。
「人が集まりますかね」
もうひとりの防犯委員の大坂が渋い表情をして言った。
「たしかにそうですね。最近は普段のパトロールも人が集まらなくて困るくらいですから」
政宏は以前からそのことが気になっていたのだった。
「以前役員をしていて家にいる人を限定してひとりづつ説得しますか」
室井がまた強気な発言をした。「
自治会活動はあくまでも会員の自発性が建前ですから、個別に交渉するというのはどうかと思います」
正論をいつも言う副会長の井村が発言した。
室井はまたかと言う顔をした。
「たしかにそうですが、今は緊急事態なのですから」
「そうですね、うちの周辺のお宅には毎日警察官やマスコミが尋ねてきて大変だと言っている方が多いです」
5丁目の役員の宮前が発言した。
「5丁目の皆様には大変なご迷惑をおかけしていると思っています。こちらからマスコミは取材を自粛するように要請はしているのですが、強制的に止めさせるわけにもいかなくて」
「そうでしょう。それより、この町に犯人がいるとしたらそれは本当に不安なことですよ」
「警察も一刻も早く犯人の検挙に全力をかけているのですが」
「とにかく今日は自治会としてやることを決めなければならないので、どんどんご意見をお聞かせください。提案もしていただけると良いのですが」
「やはりパトロールの強化が一番ではないでしょうか」
「それしかありませんね。とにかく町の目を増やすことが防犯につながりますから」「さっき室井さんがおっしゃったことが一番良いような気がします」
「そうですね、逆にそれしかないのかも知れません」
「5丁目の方以外には来ていないので、他の丁目の役員の方に説明しなければならないですね」
「それをしていては時間がかかりますね」
「それだったらとりあえず、週末の役員会までは5丁目の人を中心にパトロールの範囲を広げてみるのはいかかでしょうか」
井村がそう発言すると防犯委員のふたりも納得するような表情をした。
「うちは2丁目なのですが、近所で参加できる人を探しましょうか」
と大坂が言った。
「私も近所の人に声をかけましょう」
室井が続いた。
「ではおふたりにはそうしてもらいましょう。どれだけの人が集まったかを連絡していただけますか。それによってパトロールの範囲と人数割りをしますから」「そうしましょう」
臨時役員会の結論としては防犯パトロールの強化をするという結論が出た。
所轄の生活安全課の課長も政宏たちに感謝の言葉を残して去っていった。
「どれくらいの人が集まりますかね」
「あまり期待はできなけど、やるだけのことはしないといけませんですしね」
政宏と井村はいったん家に帰り、役員たちからの連絡を待つことにした。
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