第11話

緑ヶ丘住宅で起きた殺人事件は、全国規模のニュースでも取り上げられて、離れたところからも野次馬が集まるなど普段は静かな住宅街が騒然となるほどの騒ぎになった。

捜査関係、マスコミの車両をはじめ、野次馬のクルマも住宅街に入り込み、交通整理の警察官も出動していたほどだった。


高校生の富松英智は学校からの帰り道に公園で不審な人物を目撃して、そのことを警察にも届けていた。

事件当日の夜、英智がふと窓から外を見ると、自分の家を見張っている不審な人物の影を見た。

母親がすぐに警察に電話をして10分かからずにパトカーが家の前に停まった。

なかから出てきたのは、捜査本部に乗り込んできた警視庁捜査1課の河野警部と窪田巡査部長だった。

所轄の西三郷署の捜査本部に参加しているほとんどの刑事がまだ捜査中でいなかったので、残っていた河野たちが来たのである。

「どんな人物でしたか。男でしたか、女ですか」

「少し離れた電信柱の下にいて、ちょうど影になっていて人相までは分かりません。帽子みたいなものを被っていたので。」

「背丈はどれくらいですか」

「多分自分と同じくらいでしょうか」

「男か女か分かりませんか」

「ズボンをはいてましたし、すぐにこちらに気が付いて逃げていきました。」

「動き方から男のようでしたか」

「ん・・・」

「監視されるような覚えはありますか」

「いえないです」

「お母さんはどうですか」

心配そうに横で聞いていた母親にも質問を向けた。

母親は、息子が学校の帰りに不審な人物を見たこと、それを確かめに目撃した公園にふたりで行ったが誰もいなかった。

たまたま通りかかったパトカーから警察官が出てきたので、息子が目撃した様子を話したということを河野に語った。

「そのとき目撃した人物と同じ奴ですか」

きょとんとしている英智に河野が質問をした。

「服装が違うような気がしました。公園にいた人はフードの付いた上着を着て、フードを被って顔が見えないような感じでした。でも、夜見た人は確かフードがついていないジャージのような感じの服だったと思います」

「ジャージですね」

服の特徴が思い出してくれれば重要な証言となる。

「色はどうですか」

「暗い色だったと思います。明るい色なら遠くでも明るく見えると思います」

「靴はどんな靴でしたか」

「はっきりとは分かりませんけれど多分普通のスニーカーだったと思います」

「昼間見た人物と同じでしょうかね」

「確かなことはわかりません」

河野はそれが殺人事件とどう関わるか分からないが、とにかく捜査対象としては重要な案件だと思った。

「もしその人物が事件に何らかの関係があれば、危険です。制服警官を貼り付けますから充分に注意してください」

「恐いんですけど」

「もしあまりにも恐怖心が高まるようなことがあれば一時的にここを離れるとかをお考えになっても良いだろうとは思いますが、そこまでは警察のほうでは強く言えませんので」

「はい、この子は自転車で通学していますが、それも恐いですね」

「もしクルマで送り迎えできるのであればそれが良いでしょう」

「主人と相談して決めます」

「とりあえず警察官はこの住宅地にしばらく常駐しますので何かあったらすぐに連絡してください」


河野と窪田はその家を離れた。

「ホシでしょうか」

「分からないな、もしホシなら犯行現場に近すぎる」

「そうですよね、ただこの住宅地にホシが住んでいるとしたら可能性はあります」「住宅街の自治会に集まってもらって状況を説明しなければならないな。お前は明日市役所に行って協力してもらう体制を組むように説明しに行ってくれ」

ホシがこの住宅街に住んでいるとしたら、解決は早いような気がしていた。





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