第9話

被害者の杉原理恵が12年前まで住んでいたさいたま市のマンションに捜査のために訪れた深津たちは、管理組合の組合長の部屋に向かった。

ドアには「福田」と書いてある。

チャイムを押すと70歳くらいの白髪オールバックの紳士が現れた。

「西三郷署の深津と申します。実は以前こちらに住んでいた杉原さんのことでお話を伺いたいと思いまして伺ったのですが」

「杉原さんに何かあったのですか」

「じつは亡くなられまして、それが事件性がありまして」


福田は驚いているようでしばらく声が出来なかった。


「緑ヶ丘住宅というところにお住まいだったのですが、そこでは杉原さんのことを知っている方がいないものですから」

「ご主人が亡くなったことは知らされていましたが、奥さんが亡くなったということですか」

「そうです」

「まさか殺されたとかですか」

「亡くなられた状況は詳しくはお話できないのです」

「そうですか。びっくりしました」

「福田さんは杉原さんと親交があったと聞きました」

「入居したのが同じ時期でした。管理組合を作るときから一緒にやっていましたし、同じフロアだったので、お互いの家で食事をしたりお茶をしたりしていました」

「杉原さんのご主人はどんな職業でしたか」

「確か大手の電気メーカーだったと思いますよ。奥さんは専業主婦だったと思います」

「どこの会社かご存知ですか」

「三津谷電気だったと思います」

「奥様はどんな方でしたか」

「ご夫婦にお子さんがいなかったのはご存知ですか」

「はい」

「だからというわけでもないのでしょうけど、よく夫婦で海外に行ってましたね。うちなどは子供が多いのでそんな余裕はなく、少し羨ましかったですけどね」

「人柄はどうでしたか」

「ご夫婦とも良い方でしたよ。奥さんはこのマンションで世話役みたいな感じでお年寄りの面倒をみたり、子供たちを集めて集会場で書道教室をしたりしていました」「トラブルとかはなかったですか」

その言葉に福田は顔を曇らせた。

「どうでしょう、思い出せないですね」

声のトーンが明らかに落ち込んでいた。

深津は何かあると思ったがすぐには反応しなかった。

「思い出しませんか」

「そうですね、もう12年以上前のことですからね」

「それでは何か思い出したらこちらに連絡していただけますか」

そう言うと名刺を渡した。

その後、交流のあった人を数人会ったのだが、有力な話は聞けなかった。


「福田という男は何か知っているんじゃないですか」

ハンドルを握りながら生駒が質問した。

「確かに何か心当たりはありそうだが、今はまだ言わないだろう。殺されたことにショックを受けているだろうから」

「何か思い出したら電話してくるでしょうか」

「それはないだろう、しばらくしてからまた来ればいいさ」

「これからどうしますか」

「三津谷電気に行ってみよう」

「本社は確か品川ですよね」

「調べてみる」

深津はスマホで検索し、本社が高輪台にあることを確認して、カーナビにその住所を入力した。

国道から高速に入り品川で降りた。

40分くらいかかった。

本社ビルは高輪台でもひときわ目を惹く30階建ての高層ビルで、中に入るとすぐにセキュリティゲートがあり、受付に行かされた。約束などはしていなかったので、どのセクションで対応するか時間がかかった。

20分ほど待たされて総務課の会議室に案内された。

課長と名乗る男が出てきて、深津たちの話を聞いてから調べるといって自分のデスクに戻っていた。

しばらくすると戻ってきた。

「杉原さんを知っている現役の社員は少ないのですが、元の部下がひとり管理部にいます。そのものに連絡しましたのでまもなく来るのですが、杉原さんと同期入社の人の名簿をコピーしましたのでお役にたてるのではないかと」

「お手間をとらして申し訳ありません」

その後杉原の元部下という人物にも話しを聞いたがほとんど得るものはなかった。

深津たちは署に戻り杉原の元同僚たちに連絡してアポイントを取り捲った。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る