第4話

埼玉県警西三郷署の深津は刑事部の部屋に提示に着いた。

いつもは、15分ほど早く着くのだが、家にスマホを忘れたので一度引き返したので、定時ちょうどの出勤となった。

このところ大きな事件が発生していないので、生活安全課の応援などで半数くらいの刑事たちがまだ出勤していなかった。

刑事課の課長は身内の葬儀で昨日から欠勤していて、強行班チーフは組対の応援でいないし、深津はのびのびとした気分だった。

とくに、苦虫を踏み潰したような顔をいつもしている刑事課長の顔を見ない朝ほど快適なものはないと、手元にあった新聞を広げようとしたときだった。


無線から本部の指示が聞こえてきた。

「緑ヶ丘住宅で不審死体の発見。所轄はすぐに出動願いたい」

いきなり飲もうとしたお茶をこぼしそうになった。

深津は緑ヶ丘住宅に住んでいたからである。

「深津さん、行きますか」

「鑑識を出動させろ」

「自動車警ら隊は現着しているのか」

「いま確認中です」

「現着した察官はいないのか」

「確認してます」

「しょうがねえな」

深津は生駒とともにクルマに乗り込み緑ヶ丘住宅の現場に向かった。

現場には数人の警察官が現場を押さえていた。

「ご苦労様です」

「死体はどこだ」

「奥のリビングです」

家のなかに入ると廊下の突き当たりにリビングがあり、台所と同じ部屋にあるどこにでもある間取りだった。

死体となって横たわっていたのは一見60歳以上の女性だった。

頬がこけ、白髪の長い髪がうつぶせになった体に巻きついている。

初見では外傷はなさそうだった。

「絞殺か」

「多分そうですね」


すぐに鑑識がやってきて、鑑識活動が始まった。

刑事たちは鑑識が終わるまで現場から出なければならない。

続々と所轄の刑事たちが集まってきた。

無線で、現場の指揮をするように命令されたのは深津だった。

刑事部のはまだ多くの年長者がいたのだが、殺人事件に一番経験のあるのが深津であった。そこを副署長は見込んだのであろう。

じきにチーフも現場に来るが、1分1秒を争う初動捜査を始めなければならない。「第一発見者は俺が担当する。他のものは近所の聞き込みをしてくれ。地域課に連絡して市内の国道とのポイントにPA(パトカー)を配置するように伝えろ」


第一発見者は、現場の前の家の住人と、散歩をしていた近所の住人だった。

三人はぶるぶる震えながら警察官の前に立たされていた。

「お待たせしました。まず発見状況についお伺いしましょうか」

60歳くらいの野球帽をかぶった男性がまず話しを始めた。

「うちはそこを少しいったところにあるのですが、散歩から帰ってきたときに、こちらの玄関が開いているのが目に入りましてしばらく見ていましたら、前の家の奥さんが出てきて、おかしいなと話しましたところ、旦那さんも出てきて、チャイムを何回も鳴らしましたが何の反応もないので、心配になりまして中に入って、そこで発見しました」

前の家の夫婦も同じことを言った。

散歩をしていた住人によれば現場から出て来る人間は見なかったということだった。

しばらくするとチーフの竹田がやってきた。

「鑑識中か」

「そうです」

「第一発見者の聴取は終わったか」

深津は先ほど聞いた話を竹田に報告した。

「まだ時間がかかるな」

「後1時間くらいでしょうか」

「仏はおばあちゃんだってな」

「そうですね。発見者によればここでひとり暮らしをしている杉原理恵さんだそうです」

「年齢は」

「多分70歳くらいだろうと」

「旦那はいないのか」

「5年ほど前に病死したそうです」

「ところで君はここの住人だそうだな」

「そうですここは6丁目ですが、わたしは5丁目です」

「近いな」

「君の家族は仏さんを知っているんじゃないか」

「さっき電話して聞きましたが知らないそうです」


そんなことを話していると鑑識のチーフが出てきた。

「絞殺です。死亡推定時間は午前5時くらいでしょうか。詳しいことは司法解剖後になりますが」

「ヤマになりましたね」

「帳場が立つかな」

ふたりは顔を見合わせた。



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