第5話
緑ヶ丘住宅で起きた不審死事案は、鑑識の臨場の結果、殺人事件となった。
所轄の西三郷署は、埼玉県警本部に連絡して、県警の捜査1課の精鋭が即出動されることになった。
本部の刑事たちが着くまでは現場周辺の聞き込みを所轄は全力で行うことになった。
「これで主導権は本部の連中になるでしょうね」
西三郷署の生駒が愚痴ると
「いつものことじゃないか」
と深津はたしなめた。
「うちでは1年ぶりの殺しのやまなのに」
「不謹慎なことを言うな。マスコミに聞かれたらお前は地域課の箱勤務になるぞ」
深津は生駒を睨みつけた。
所轄の刑事たちはこういう重大犯罪が起きるといつも同じ思いをさせられる。
本部の刑事が上から目線で所轄の刑事をあごで使う。
それの繰り返しだった。
「殺しですか」
ひとりの男が近づいてきた。
「毎朝新聞の松永です」
社員証を顔のほうに持って見せ付けた。
深津には見覚えの無い顔だった。
「早いね」
「たまたま察まわりで西三郷署にいたもんで」
「今はまだ事件かどうか分からないよ」
「事件となれば西三郷署が捜査本部になるんでしょうね」
「そうなればな」
「司法解剖中ですか」
「まだ言えない」
これ以上は聞けないと思ったのか、記者は離れていった。
現場周辺の聞き込みをしていた刑事たちが集まっていた。
「どうだった」
「近所の人との付き合いはあまりなかったみたいですね。数年前からひとり暮らしであまり外出もしていなかったみたいです」
「自治会のコーラス部に入っていて、それには顔を出していたそうです」
「ご主人は5年前に病気で亡くなったそうで、娘さんがたまに来ているそうですが、それ以外はあまり出入りがないということでした」
「ご主人は定年後すぐに病気になって入退院を繰り返していたそうです」
「トラブルはなかったのか」
「ここらへんの人からは聞こえてこないのですね」
「ガイシャは穏やかな人でトラブルを起こすような人柄ではなさそうです」
遺体搬送の警察車両が到着して遺体を搬送した。
それに合わせるかのように県警本部の捜査1課の刑事たちが到着した。
二台のクルマから降りてきた筋骨隆々の男たちは黒のスーツに身を固め、エリート臭がプンプンしていた。
「本部の河野だ。聞き込みの具合はどうだ」
深津は頭を下げて現状を報告した。
「現場を確認したら、所轄で第1回の捜査会議をする」
たいそうな剣幕で現場を確かめた本部の刑事たちは西三郷署に向かった。
その後を追うように深津たちも署に戻った。
会議室は熱気でむんむんしていた。
西三郷署には多くのマスコミも到着し、駐車場にはテレビ局の中継車が数台停まり、集まった記者は数十人に達していた。
本部から広報部員が応援に駆けつける事態になっていた。
西三郷署にとっては久しぶりの大事件なので、全署員が舞い上がっていた。
西三郷署が管轄する地域は、工場地帯と住宅街が広がる地域で繁華街もなく、比較的治安の良い地域だった。
殺人事件は2年前にあったくらいで、捜査本部が立つのは久しぶりだった。
会議の初頭、西三郷署の中島署長が挨拶した。
「本事案は、ひとり暮らしの女性が犠牲になった凶悪事件である。地域の平静を取り戻すために早期に犯人逮捕を実現するように担当各位の奮闘をお願いしたい」とした。
続いて、本部の管理官が西三郷署に捜査本部を置くことを発表して、指揮は本部の捜査1課長が担当することになった。
現場で聞き込みをした刑事たちからの報告が始まり、現場を検証した鑑識からも報告がなされた。
「凶器はひも状のやや細い縄と思われますが、それは現場では発見されておりません。現在周囲を捜索中であります」
明らかな殺意のもとに被害者を襲った事件であることが確認された。
「長引くような気がします」
生駒がぼそりとつぶやいた。
「自首してくれるとありがたいが、まずは怨恨で調べないとな」
「物取りではないのでしょうね」
「現場は荒らされた形跡もあるが、偽装の可能性もあるが、物取りは殺しまではやらないだろう。特に住宅街を狙うもの取りなら常習犯が多いからな。一応2課に最近の窃盗犯の現状を調べるように課長が要請したそうだ」
もし、流しの犯行で、物取りのプロの犯行でなければ、かなり捜査は難航しそうな気がしていた。
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