一年後-終幕-(王太子視点)

第1話

 あれから一年たった。怒涛の一年だった。


 まず、宰相には随分苦笑いされたが、卒業パーティーの翌日には婚姻証明書を提出した。しかし、苦笑いはそこまでで、すぐさまカルラを王宮に住まわせるつもりだと告げると表情が一変した。なんでもカルラが養女になって一ヶ月、夫人が子供が二人とも息子だったため、娘が出来て大喜びしていたのだという。長男は結婚しているので嫁とは同居しているのだが、それとこれとは違うのだそうだ。あのパーティーでカルラが着ていたドレスも夫人と嫁とで随分とはしゃぎながら仕立てたのだという。


 愛妻家で有名な宰相は夫人最優先なので、カルラを可愛がる夫人を見て目尻を下げているらしい。普段の厳つい顔からはとても信じられないが。


 実母が亡くなってから今まで家族の愛に飢えていたカルラも嬉しそうなので、結婚式を執り行う一年後までは侯爵家に住むことを渋々だが了承せざるを得なかった。


 王太子妃教育は、アルフレードの婚約者として、と偽って密かに行っていたので、改めて教えることは少ない。時折王宮で復習をしている。こちらは王妃である母が随分と張り切っているが、私との時間が減るのでほどほどにして欲しい。


 今日は公務で忙しい合間を縫って空き時間を無理矢理工面したので、久々にカルラとテラスでゆったりお茶をしている。流石にもう城下に出掛けるのは無理だが、式をあげたら何処かに新婚旅行に行きたいと言ったら、にっこり笑った国王に、叔母達が嫁いだ国中心に外交訪問をびっしり入れられた、とカルラへ愚痴っている所だ。


「カルラとのんびりしたかった……」


「うふふ。でも私はクラウディオ様とお出かけ出来るだけで嬉しいですわ。ただ、私も初めての公務で緊張すると思うのでクラウディオ様は助けてくださいね?」


「もちろんだ」


 可愛く妻におねだりされて断れる男がいるだろうか。いや、居ない。


 暫くは一月後に迫った結婚式の事を、ぽつぽつと話す。一年前までは手紙でしかやり取り出来なかった事を、カルラの顔を見ながら話せるのはとても楽しい。だが、ふと楽しくない話をしなければならないのに気付き、つい眉間に皺を寄せてしまった。


「クラウディオ様?どうなさいました?」


「……オルシーネ子爵家が取り潰しになった」


「……そうですか」


 私が何を言おうとしているのか気付いたのだろう。カルラは静かにカップを置くと、私の方へ顔を向けた。


「正直、あの方達がどうなろうと私にはもう関係ありませんが、聞いておいた方が良いのでしょう……」

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