第2話

 元々右肩下がりしていた伯爵家領地の業績は、一年前子爵に降爵すると同時に一気に悪化した。なにせ彼らは、一年前は長女が侯爵夫人、次女は王太子妃になると思っていたのだ。王太子妃に関しては、公式に発表する前に匂わせる様な事は禁止していたのだが、大公子息との婚約は公になっているので、王家と繋がりがあるといっては金を借り、贅沢をしていたらしい。ルーチェ嬢が王太子妃になれば、名前だけで有利な取引が出来るだろうと皮算用ばかりしていた様だ。


 しかし、結果は王太子妃どころか自分が降爵。挙げ句に王命で不良物件のアルフレードを押し付けられた。カルラも居なくなり、ルーチェ嬢をなんとか高位貴族に嫁がせて金の工面をする、という事さえ出来なくなった彼らがやったのは、不当に税収を上げる事だった。国で決められた税率を大幅に逸脱した徴税を行ったらしい。元々そこまで国益のある土地ではない為、何もなければ発覚しなかったのかもしれないが、一年前の事件により彼らには監視が付いていた。領地の村々に税率を上げると公布した所で、王都の税務官を乗り込ませ摘発した結果、領地と爵位の没収、と相成ったわけだ。


「取り敢えず、平民がちゃんと働けば一家四人一年暮らせるだけの金は残して渡したらしいが、まともに仕事は出来ると思うか?」


「無理でしょうね。プライドだけは高いですから」


 全員生まれた時から貴族で、平民のように汗水垂らして力仕事などしたことがないだろう。探せば仕事などいくらでもあるだろうが、彼らがプライドを捨て、平民と一緒に働くことを選ぶとは思えなかった。


「……隣の芝生は青く見える、って諺を知っていますか?」


「ああ、他人の物の方が良く見える、というやつだろう」


 まさにあの二人がそうだった。他人の物ばかりを欲しがっていた。


「芝は上から見ると、枯れた茶色い葉が下に見えるので汚く見えるけれど、遠くの芝は斜めから見るので枯れた芝が目立たず綺麗に見える、という所から来ているそうです。本来は同じ芝なのに、という意味でしょうが、彼らの場合は違う。水もやらず、肥料もやらず、すべて枯らしてしまった芝の上に立っていたのですもの。遠くの芝が良く見えるのは当たり前だわ」


 カルラが静かに目を閉じる。きっと口ではどうなっても構わないといいつつも、愛情深い彼女は心を痛めているのだろう。

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