第5話

「学園では、みな身分に関わらず一生徒という立場だった。しかし、今日卒業式を済ませた以上この場にいる全ての者は、身分に相応しい行いをしなければならない。オルシーネ伯爵令嬢ルーチェ。カルラは王太子たる私の婚約者であり、その上今は侯爵令嬢。私だけでなくカルラも貴様よりも身分は上だ。今の言葉、王太子の婚約者への侮辱、不敬とみなす。王家に楯突いた罪、身をもって贖え」


「そ、そんなっ!?ただ私は!!」


「誰が口を開いていいと言った。喚くな、と言った筈だ」


 再びルーチェ嬢を黙らせると、壇上の父を見る。父は静かに頷くと口を開いた。


「オルシーネ伯爵令嬢の王家への不敬を認め、オルシーネ家を降爵。子爵とする。並びにルーチェ嬢の婚約者たるアルフレード・エターリオは連座で降格、ルーチェ嬢との婚姻し、オルシーネ子爵家の婿養子となるように。これは王命である」


「「「はぁぁぁぁぁっっっ!?」」」


 アルフレードとルーチェ嬢、それにオルシーネ伯爵……おっとオルシーネ子爵か。三人が驚きに声を張り上げた。叔父は展開に付いていけず、呆然としている様だ。


 前々からアルフレードの今後には悩んでいた。婚約者たるカルラを冷遇し、堂々と不貞を犯したというだけならこれ程重い処分にはならなかっただろう。アルフレードは学園で身分を笠に着て下級貴族の子息達を小間使いの様に扱っているとの苦情が多発していたこともだが、なによりアルフレード…いや叔父は、アルフレードの地を這うような学園での成績を、ゴリ押しと賄賂で改竄させていたのだ。良識ある一部の教師の告発で内々に発覚したのだが、再び湧いてでた王家の不祥事に、父は頭を抱えていた。


 侯爵の地位を与える以上はそれなりの領地も必要だが、これまでのアルフレードを見る限りまともに領主の仕事が出来るとは思えない。これ以上監視のために優秀な人材を付けるわけにもいかない。監視だけですめばまだ良いが、アルフレードが取り返しの付かない何かをしでかしたら困る。


 となれば、侯爵より下の地位に降格し、出来れば国政に重要でない領地に封じるのが一番簡単だろう。おそらく婚約の事で、近々何かをやらかす事はわかっていたので、それに乗じて処罰してしまおうという計画だったのだ。流石にここまで綺麗に計画通りになるとは思いもよらなかったが。


 ちなみにオルシーネ家の領地は、先代の頃はそれなりに豊かであったが、現当主に代替わりしてからどんどん優秀な領民の流出があり、今は赤字に苦しんでいた筈だ。それなのにルーチェ嬢の我儘で借金もあると聞く。アルフレードを押し込めるには格好の地だろう。


「ぼ、僕はルーチェの婚約者じゃない!!子爵家なんて庶民に毛が生えた様な下級貴族に婿養子なんて冗談じゃない!!」


「おや?お前はルーチェ嬢と真実の愛で結ばれているんだろう?カルラを捨ててまで選んだんだ。婚約者になるのは当然だろう。良かったな真実の愛が実って」


「あ、従兄上あにうえの婚約者になるかもしれないと思ったから……そうじゃなきゃこんな我儘女っ!!」


「なんですってっ!?こっちこそあんたみたいな出来損ない、あの女の婚約者じゃなきゃ誰が媚売ったりするもんですかっ!!」


「誰が出来損ないだっ!!この阿婆擦れ!!僕だけじゃなくて他の男にも擦り寄ってただろう!!」


 段々内輪揉めが白熱して煩いので、衛兵を呼び二人と呆然自失のオルシーネ子爵夫妻、それに我に返って騒がれたら面倒なのでついでに叔父を退出させる。扉が閉まる寸前まで喚き散らしていた声が聞こえなくなると、やっとホールに静けさが戻った。


「ここに集う卒業生とその親族の皆。式を混乱させて済まなかった。この後何もなかったように楽しめと言われても難しいだろう。後日改めて卒業パーティーを開き、そこで記念の品を贈らせてもらうので容赦願いたい」


 王直々の謝罪に意を唱えるものなど居ない。茶番から始まった波乱の卒業パーティーは、ひとまず幕を下ろした。

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