第4話

「はい。喜んでお受け致します」


 立ち上がり抱き寄せる。やっと……やっと大手を振ってカルラを抱き締められた。


 ごほん、と咳払いが聞こえたので顔を向けると、苦笑いする父と目があった。衆人環視の中だろうが私は構わないが、腕の中のカルラが恥ずかしそうに身動ぎするので渋々離す。


「フォレスタ王国国王、フォルトゥナート・フォレスタの名において、王太子クラウディオ・フォレスタの、サテッリテ侯爵令嬢カルラとの婚姻を認めよう」


「「ええっ!?」」


 父と話し合いをし、カルラとアルフレードの婚約が解消次第、直ぐ様婚姻の手続きをするつもりだった。本来王族の結婚といえば、一年から三年ほどの婚約期間を経てからだが、これ以上横槍を入れられたくは無いと強硬に主張をした私に、父が折れた形だ。一先ず婚姻証明書にサインをし貴族院に提出する。それならば式など何年後になっても構わない。


「あ、従兄上が何故カルラ嬢と……!?」


「そうよ!!おねえさまはアルフレード様を愛しているのでしょう!?」


「いいえ?」


「えっ!?」


「私はアルフレード様をお慕いしていると言ったことは一度も無いわ。婚約を望んだ事も無い」


「そ、そんな!?だっておねえさまは私に嫉妬して酷い事をおっしゃったじゃないの!!」


「私が貴女に言ったのは『アルフレード様は私の婚約者だから近づくな』だけよ?嫉妬ですって?貴族の令嬢……いえ、女性として常識的に婚約者に近付く女に忠告しただけよ」


 周り……特に女性が同意するように頷いている。我が国は一夫一婦制で、とりわけ不貞に対して厳しい。結婚後は勿論、結婚前でも婚約中であれば白い目で見られてもおかしくない行為だ。感情の有無関係なく咎めてもおかしい事ではない。


 なのに、この二人は学園で人目も憚らず肩を寄せ合い、時には口付けも交わしていたらしい。カルラが異母妹に対して口頭で忠告するなど、ごく当たり前の事だ。


「私はずっとクラウディオ様を、……クラウディオ様だけをお慕いしているの。私がそれを態度に表したら貴女はアルフレード様ではなくクラウディオ様に纏わりつくもの。それだけは耐えられないわ。だからあえてクラウディオ様には近付かなかった」


 カルラはそう言って私の腕にしがみつく。確かに同じことをアルフレードがカルラにしていたら私も耐えられない。


「辛かったわこの数年。好きでもないアルフレード様に婚約者としてお仕えしなければならなかったのだもの。だからその分これから私はクラウディオ様と幸せになるわ。貴女も幸せになれるといいわね。……なれるのものなら」


「なっ、なによっ!?あんたなんかがなんで幸せになれるのよ!?あんたなんか…あんたなんか私の踏み台の癖にっ!」


 フフッと微笑みながら嫌みを混ぜるカルラに、ルーチェ嬢がいきり立った。今までのしおらしい態度が嘘のように喚くルーチェ嬢に、隣のアルフレードが信じられないという顔をして一歩離れる。


「何もかもあんたは私に差し出せばいいのよ!!私は世界で一番幸せになる為に生まれてきたのよ!!あんたなんか親に見捨てられた癖に!!」


「喧しい喚くな。不敬だ」


 これ以上はこの耳障りな声を聞いていたくない。冷たい声で告げると、ルーチェ嬢はビクッと竦み、押し黙った。カルラを睨み付けたままだが。

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