第4話

「私とアルフレード様の婚約は父と大公殿下との間に結ばれたものです。私の一存ではどうこう出来ません」


「実の妹がこれ程苦しんでいるというのに、君には情というものがないのか!?」


 正論で返せば、論点をすり替えられた。実の妹ではなく半分妹だし、情があるかないかといえば全くありませんが。


「ルーチェ!お前は王太子殿下の婚約者なのだぞ!?このままなら王妃になれるのだぞ!?」


 再び伯爵を見ると、真っ青な顔のままルーチェ達の前へ飛び出してきた。周りの参加者達がざわめく。当たり前だ。今年二十歳になる王太子殿下に今まで婚約者はおらず、候補の噂すらなくどうなっているのかが、夜会でよく話題に上っていた。それが、伯爵位でも下から数えた方が早いくらいの序列のオルシーネ家令嬢が婚約者とはどういうことだと疑問に思うだろう。


「お父様!私は地位よりも名誉よりも愛に生きたいのです!」


 ルーチェが今一番手に入れたいものがアルフレード様である以上、確実に手に入るまでは誰の言うことも聞かないだろう。そういう性格に育てたのは現伯爵夫妻だ。


 伯爵はルーチェを溺愛してはいたが、それはあくまで成り上がる為の駒を大事にしていたにすぎない。それはルーチェにとっても同じだ。自分の感情と利益のみで繋がった似た者親子。今彼は愛娘から強烈なしっぺ返しをくらった形だ。


「私の一存では破棄も解消も白紙にもできませんが、愛し合う二人を引き裂くことも本意ではありません。父は聞かずとも許して下さると思いますので、あとは大公殿下のご意志のみかと」


「何を馬鹿な事を!!私は破棄など認めんぞカルラ!!」


「……オルシーネ伯爵。認めていただく必要はありません」


 伯爵が私に向かって怒鳴り付けるが、私には彼に従わなければならない義理はない。何故なら……


「認めよう」


「はぁっ!?」


 その時、壇上から静かに声がかけられた。そして壇上を見やり先程まで激昂し顔を赤らめていた伯爵が、一瞬で真っ青に戻る。どうやらこの茶番劇の特等席に誰が座っているのか思い出したようだ。


「フォレスタ王国国王、フォルトゥナート・フォレスタの名において、エターリオ大公子息アルフレードの、サテッリテ侯爵令嬢カルラとの婚約破棄を認めよう」

 

「なっ!?サテッ…リテ……!?」


 まあ。私としたことが、最初の間違いを正すのをすっかり忘れていましたわ。自分で思っていた以上に動揺していた様です。


「アルフレード様。私はカルラ・オルシーネではありませんわ。先月ようやくサテッリテ侯爵家に養女として迎えていただきカルラ・サテッリテとなりました。つまり私の父はサテッリテ侯爵。オルシーネ伯爵ではありません」


「なに!?どういうことだオルシーネ伯爵!!」


 あら? 忘れていた訳ではなく、アルフレード様はご存知なかったのかしら。

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