第3話
顔合わせも無く、突然発表されたと告げられた婚約。貴族令嬢なら家のためにと嫁げ、と言われても納得出来ないものは出来ない。特にどうでも良い妹のためというなら尚更だ。しかも、後日会った婚約者は本当に最悪だった。大公殿下に溺愛されて育った、温室育ちの甘ったれ坊や。大公妃殿下はアルフレード様を産むと、義務を果たしたと育児を放棄。子供は甘やかすものだと思い込んでいる大公殿下は欲しがるものを全て与え、嫌がるものを遠ざける事が子育てだと思っていた様だ。出来上がったのが我慢が出来ない癇癪持ち。どこかの誰かにそっくりな性格だ。
しかしそっくりな性格、というところで我儘な妹を思い出した時点で、私は一計を思い立った。なんでも私のものを欲しがる妹に奪わせれば良いのだ、と。簡単には奪えない、といったがそれは父の思惑と違えるからだ。あの人は妹を王太子妃にしたいのだ。だが、父は溺愛しているくせに妹の性格や好みをちゃんと把握していない。王太子殿下は妹の好みではないのだ。
王太子殿下は、東国の姫であった母君…王妃殿下に似て艶のある黒髪に黒真珠の様な瞳。見目麗しいが、ややつり目で見つめられると睨まれている様に見えるらしい。対して大公子息のアルフレード様は緩くウェーブがかった輝く金の髪とエメラルド色に輝く瞳。現王陛下兄弟と同じ色で、見た目だけは理想的な王子様だった。中身は我儘癇癪持ちだったが。もし私が王太子殿下の婚約者であったら、妹も興味を持ったかもしれないのに。
ルーチェはとくに私が大切にしているものほど欲しがる。なので、計画を実行すべくアルフレード様の元へ足しげく通った。内心は嫌々だったが。最初のうちは私が王城(大公殿下一家は王城に住んでいる。だが身分に相応しい仕事は何もしていない)を訪ね、当たり障りのない会話をしては、家でルーチェにはひたすら自慢した。
『おねえさまばかりあんな素敵な方と婚約してずるいです!!』
すぐにルーチェはアルフレード様に興味をしめした。計画通りだ。たまに手ぶら(普通婚約者の家を訪れるなら花束のひとつも持ってくる)で伯爵家を彼が訪れると、いつも纏わりついていた。叶うなら今すぐリボンをつけて譲りたいくらいだったが、時期尚早とグッと我慢した。
大きく事態が変わったのは、私達が学園に入学してからだ。婚約者の妹の身分ではなかなか会えなかったアルフレード様とも自由に交流がもてるようになったルーチェは、急激に勉強そっちのけで付きまとう様になった。私もまめに会いに行くが、既にルーチェが居て、紳士淑女とは言えない距離で話しているのを何度も目撃した。
アルフレード様は私の婚約者なのよ近づかないで、と注意すれば、
『そんな…将来私のお義兄様になると思ったから、おねえさまの為に今から親しくしておこうと思っただけなのに!』
と、開き直る。いつもならそうだそうだ、と妹を擁護する父も流石になにかおかしいと気付いたのか、妹を諌めるものだから余計火が着いたらしい。この頃には父の労力が奏したのか正式ではないが王太子殿下の婚約者候補の候補くらいにはなり王城にあがる事も増えたが、王太子殿下には寄り付かず、アルフレード様の元ばかり訪れるようになっていた。計画は思った以上に順調に進んだ。
その結果が今日の茶番劇と繋がったのだ。
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