第5話

 三ヶ月程前の事。私と父に国王陛下から直々に登城の指示が下った。私は理由を知っていたが秘密裏の事であり、父にとっては寝耳に水だったので、途中の馬車の中では散々何をやったのだと詰られた。自分に心当たりがないからといって、娘が何かをやったと決めつける狭量さに苛立ちを覚えたが、顔に出せば怒鳴り散らす事はわかっていたので仕方なく扇で顔を隠し下を向き黙っていた。


「は!?カ、カルラを養女に…ですか?」


 国王陛下の執務室へと通され、一通り挨拶を済ませたあと陛下が口にしたのは、私をサテッリテ侯爵の養女として迎えたい、という話だった。私も一応驚いた振りをする。どうせ父は私の方など見ていないのでおざなりにだが。


 陛下の話を要約するとこうだ。


 オルシーネ伯爵家は、伯爵としては家格が高くない。その家からもし…あくまでもしだが、王太子妃と大公子息夫人と二人も王族、王族と近しい者との婚姻ともなれば、妬み嫉みをうけることに違いない。王太子妃の実家になる(かもしれない)家がそれによって没落したりするような事になれば世間体が非常に悪い。


 ならばどちらか一人を宰相であるサテッリテ侯爵の養女にした方が良いのではという話になった。本来であれば王太子妃(の、まだ正式ではない)候補のルーチェをと思うが、サテッリテ侯爵夫人が亡きオルシーネ伯爵前夫人と学園時代からの親しい友人であったこともあり、養女にするならカルラの方を希望している。


 サテッリテ侯爵とは、先先代国王陛下の兄君が臣籍降婿した、以前から何度か王族とも縁がある由緒正しい侯爵家で、現当主は宰相の任に就いている。息子が二人居て、既に長男は結婚しており子供にも恵まれているので、養女といってもほぼ名前だけになるだろうし、婚姻までの事だ。オルシーネ家からはなにもせずとも許可を出してくれればあとは全て王家宰相家で手続きしよう。


 細かい疑問点もあるが、一応筋道は通っている。娘二人を王族上位貴族に嫁がせた誉れは魅力だが、確かに嫉妬を必要以上に受けるのは勘弁したい。嫉妬だけですめばまだましだ。嵌められ没落というのもあながち誇張では無いだろう。なにより、疎ましいカルラを外に出すことによって、今まで仕方なく使ってきた金をルーチェの為に使える。王太子妃に決まれば王家からも支度金が出るが、ドレスに宝石などいくらあっても足りないからだ。


 悪い話ではない。そう判断したのだろう父は、一も二もなくその話を受けた。


 本来、貴族籍の異動には半年から一年ほどかかるが、国王陛下直々の指示であり、もうすぐ私達が学園を卒業、ということもあって最優先に進められたらしい。晴れて私は一月前、サテッリテ侯爵令嬢となった、という訳だ。

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