第3話 死んだら帰れる安心設計のようなんだが

「……それって本当なの?」

「ええ。なんなら試してみますか?刃物が御入用ならお貸ししますが」

「う、ううん!?いらないいらない!せっかく来たんだし、もうちょっと異世界ってとこを満喫しないと勿体ないし」

「死んだら帰れるって……なんか目新しい設定だな」

「そうか?そうでもないと思うけどな」

 そう言いながら俺も挙手をする。せっかくだから一応聞いておこうと思うことができたからだ。

「はい、そこのあなたどうぞ」

「この世界では死者蘇生はあるんですか?或いは霊界だったり冥府だったり、死者と触れ合える機会があるとかは?」

「かなり上位の魔法ならば、死者を復活させることも可能と聞いております。条件は相当厳しいようですがね。死者との触れ合いも同様です。もっとも、幽霊やアンデットになった者達に関してはその限りではありませんが」

「では、俺達が死んで蘇生された場合はどうなるんですか?一度元の世界に戻ったものが再びこの世界にやってくると?」

 ぴくり、と壮年の男性の表情が少しひきつった。

「それに関しては何とも……転移者で死者蘇生されたものなど聞いたことがありませんから」

「ついでにもう一つ。元の世界……俺達の居た世界と連絡を取ることはできるんですか?」

「情報交換をするという意味でなら、可能です。死、以外にあなたたちが元の世界に帰るために必要なものがあるのですが、それを利用すれば」

「じゃあ一回それ使わせてくれない?やっぱ家族に連絡を入れとかないと心配すると思うし」

 これを言ったのは俺ではない、ギャルだ。ちなみに俺には連絡を入れないと心配するような親はいない……というか、前に声聞いたのいつだっけ?

「そのためには功績をあげてもらう必要があります」

「えー、ケチ!いいじゃん一回ぐらい」

 ギャルが抗議する。だが助かった、本当は俺が自分で聞こうと思ったんだけど、男がやるより若い女子がやった方が何というかこう、見苦しくない。

「例えそれが情報交換だけであっても、を使うためには相当のコストがかかるのです。未だ何もなしえていないあなた方のために使用させるためにはいきません」

「ぶー」

 ギャルがブーたれる。というかさっきカガミと言った?カガミってあの、鏡のことなのだろうか?それとも何か異世界的な隠語なのだろうか。

「それに、連絡なら取る必要がありません。もしあなた方がお帰りになるときは、あなた方がやってきた時間にまで遡る……正確に言うなら連続するのです」

「……僕達が消えていたという事実がなくなるというわけですか」

 と、メガネ男子。

「そういうことです」

「なーんだ。それじゃ、まあいっか」

「うーん……」

 ギャルは納得したようだが、俺はそういうわけにはいかない。

「どうした?」

 隣のガタイいい奴が尋ねてくる。

「なんかこう、しっくりこないよな。説明を聞く限り俺達がこっちに来ている間、向こうの時間は止まってるみたいな扱いにように聞こえるけど、一方情報交換はできるってどういうことなんだろ?交換ができるってことは、向こうの時間も動いてなきゃ不可能じゃないか?」

「難しく考えるなよ、ここは異世界だぜ?時間の概念なんかテキトーなんだろ、テキトー」

「……そういうもんなのかな」

「はい」

 俺が首を傾げていると別のところから挙手が。最初に俺がお巡りさんのお世話になるきっかけとなった人物。あ、違った。ストーキングした女の子、いやいやこれも断じて違う断じて。まあようするに、例のあの可愛い子。彼女の声を初めて聴いた。ややハスキーで、陰りがある感じがイイネ!

「はい、どうぞ」

「……この世界の国籍や市民権について聞かせてください。それはわたしでも得ることができますか?」

「もちろんです」

「あなたたちからすれば異世界人であるわたしたちに対する住民たちの感情は?友好的なのか、あまり好ましく思われていないのか」

「あなたたちが迫害の対象ということは特にありません。この世界ではゴブリンやリザードマンといった亜人種も多数存在しますしね。ただ、多くの市井の民はあなたたち異世界人の存在そのものを知らないので、気になるなら黙っておられることをお勧めします。ですがこの国は様々な民族の坩堝でもありますから、多少常識知らずだとしてもそこまで変な目で見られることはありません」

「……市民権を得るために必要な功績は?」

「具体的な説明はまたいずれしますが、単に住み着くだけであれば、一回の功績でそこそこの期間の家賃は得ることができると思います」

「そうですか……わかりました」

「おいおいあの子、ハナッからこっちに永住する気みたいだぜ?」

 さも興味津々と言った様子の隣。正直言って俺も相当気になった、意外だったからだ。

「そう……みたいだな」

「よっぽど元の世界じゃ居場所がなかったって感じだな。美人なのになあ」

「だよなあ」

「きっと男絡みだぜ?悪い男に騙され続けたとか、女のジェラシーでいじめられてたとか」

「憶測だろ?それに、楽しい話じゃない」

 俺の言葉に、鳩が豆鉄砲をくらったような顔をする。

「……そうだな。わりい、詮索する男は嫌われる、か」

「そういうこと」

「斜め四十五度から盗み見る男もな」

「すいませんカッコつけましたボクも同罪ですっていうかボクの方が罪深いです許してください」

 豆鉄砲どころか某軍用自動拳銃トカレフで頭をパーンッと打ち抜かれた気分だよ、俺。みんなも変態行為はダメ!絶対!

「えー、話は大きく脱線しましたが、明後日、あなた方を別の場所に移送し、そこで力をお貸ししてもらうことになります。ですので明日はどうぞごゆるりとこのグアノ国をご堪能ください」

「やったー!異世界観光じゃん!ラッキー!」

 歓声を上げたのはギャル一人だが、内心は俺も同じ気持ちだ。らっきー。

「宿泊する場所や明後日の準備に関してはこちらでご用意します。ご自由にお使いください」

「いたれりつくせりだな」

「だな」

 その後俺達は、現れた兵士風の男に先導され、馬車に乗る。だったようだが、篝火のお陰か周囲はほのかに明るい。

 そしてそのままでっかい屋敷に連れていかれた。一人一部屋。それも、かなり豪勢だ。

 ふかふかのベッドの上で横になり、今更ながらこうなった経緯を思い返す。

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