第2話 どうやら本当に異世界に転移していたみたいなんだが
「転移……組?」
「違うのか?日本から来たんじゃないのか?」
「そ、そうだよ!ということは、君もか?」
「ああそうだ。いやー、参ったね。気づいたらこんなところに連れてこられてたよ。あっはっは!」
「いや笑いごとじゃないだろ!?」
「ん、そうか?あんた、嬉しくないのかよ」
「う……嬉しい?」
「そうだよ。元の世界での人生にうんざりしてたんじゃないのか?だからこうやって異世界に来ることを祈ったんじゃないのか?」
「……まあ、当たらずも遠からずってとこだけど」
「だろ?人生セカンドチャンスってやつだ。くぅ~、燃えてくるぜ!」
「……君も、そんなに元の人生に不満があったのか?」
「まあな。あんまり楽しい話じゃないから、詳しくは話さないけどよ」
「そうなんだ。なんか、意外だ」
「意外?ああ、なるほど。確かに俺はお気楽な人間に見られることが多いからな。だけどそういう人間だって、裏では色々と抱えてるもんだぜ?」
「いや、そういうことを言いたかったんじゃなくって……」
だって君、結構ガタイいいし、それに……
「お、誰か来たぞ」
そんなことを言おうとすると、彼の言う通り壇上に誰か現れた。壮年の男性、見慣れない……いやある意味見慣れた服を着ている。そう、受付のおっさんやおばさんと同じように、中世ヨーロッパ風の衣装を身にまとっていた。風というのは結局のところ、漫画やアニメから得た何となくの知識に過ぎないから本当に中世ヨーロッパと関係しているのかはわからない。
壮年の男性――ということは結局おっさんなんだけど、受付のおっさんと比べてなんというか気品があって何となくおっさんと言いにくいところがある。いわゆる貴族というやつなのだろうか。彼はコホンと一つせき込むと、話を始めた。
「えー、まずはみなさん。我がグアノ国へようこそ。今回は五人ですか。ふーむ、段々と数が減ってきてますね」
……どうやら気づかないうちに、というかあの女の子をスカウティングしている間にもう二人増えていたらしい。こりゃひょっとしたら彼女も本当に俺の登場に気づいていなかったのかもしれない。
「手短に話しましょう。あなた方別の世界からやってこられた人間には、我々にはない特殊な力を持っています」
「おおっ!?きたきた、異能ってやつか?」
隣で……そう言えばまだ名前も聞いてなかったけど、彼が嬉しそうにしている。確かに、異世界転生や転移物はその土地の人間が持ちえない力を発揮できたりすることが多いけど……。
「……単純に科学知識とかかもしれねーぞ?」
俺の余計な水差しに、隣の男が露骨に顔をしかめた。
「だとしたら困ったな。俺、ちゃんと勉強してなかったわ」
「同じく……」
そう、特殊な力とは異能ばかりじゃない。元の世界で培われた知識や技能を当てにされることってのも結構ある。だけど、俺にそんな力はない。だってそうだろ?授業で習うようなことが将来役に立つなんて思ったことある?ガチで異世界に飛ばされることがあるだなんて、本気で思ったことある?それに専門職にでもついてたら話は別なんだろうけど、少なくとも俺に関して言えば……しがないフリーターだ。
「その力は我々にとって大変貴重なもの。ですので、あなた方にその力を貸して頂きたいわけです」
「質問」
と、一人が手をあげた。眼鏡をかけた男性、若い。おそらく高校生なのだろう。明らかに制服と思われるブレザーを着用していた。
「話の途中ですが……まあいいでしょう。何ですか?」
「そちらに力を貸すことの見返りは何なのか教えていただきたい」
正論だ。拍手してやりたいぐらいだ、眼鏡をクイッとあげさえしなければ。
「功績に応じての報酬を約束しますよ」
「報酬とは金銭と考えてよろしいですか?」
「基本はそうですが、ある程度の要望ならばおこたえしましょう」
「はーい、うちも質問」
次に挙手したのは若い女性。年のころはさっきの男性と同じくらいで、結構派手な出で立ち。俺が学生の時はまず絡めなかったような相手だ。え?ギャルはオタクにやさしいはずだって?仮にそうだとしてもさ、向こうから俺みたいなキモヲタに積極的に話しかけてくる理由って無いよね普通。当然こっちからも無い。だから結局絡みが生じる余地がないわけ。でしょ?
おっと、おっさ……オジサンがギャルの方を向いたぞ。ていうか自己紹介はしないのな、この人。
「何でしょう」
「やっぱ元の世界にはもう帰れないの?」
これも重要な質問だ。確かに異世界ものの多くはもう二度と帰ることができない。だがこれは転移であって転生ではない。そうである以上、帰れる可能性はゼロじゃない……はずなのだが……。
「いいえ、帰れますよ」
なんとあっさり。
「マジ!?どうやって!?」
「方法は二つあります。一つは功績を積み重ねること、そしてもう一つは……」
「もう一つは?」
「死ぬことです」
場がざわついた。
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