念願の異世界に転移されたと思ったら勝手にまき餌にされたんだが
本織八栄
第1話 気づいたらわけのわからないところで整理券配られてるんだが
「じゃ、これ持って次はそっちの窓口に行ってね」
「いやいやいやいやいやいやいやいや!?」
しれっとそんなこと言われたって納得いくわけないだろ。だけどその窓口のおっさんは表情一つ変えやしない。
「あ、こっちはもうそういうリアクション見飽きてるから」
「あんたはそうでも俺は違うの!」
「はいはいみんなそう言うそう言う。だから話は向こうで聞いてね。はい、おつかれさ~ん」
「……っ!?」
おっさんはそう言うともう顔を上げようともしねえ。
このままだと埒が明かないからとりあえず言う通りにすることにした。
「……」
今度の受付のおばさんは不愛想。見るからにさっきのおっさんより難易度が高そうだ。
「あ、あのさ。ちょーっと聞きたいことがあるんだけど……」
「……出しな」
「は?」
「さっき受け取ったものがあるだろ?それを出しな」
「あ、ああ……」
さっきのおっさんに渡されたもの、それは何かの書類のようだった。文字は読めない、が、数字のようなものは何だか読める気がする。5061?確証はないが、多分そう書かれている。俺は言われた通りそれをおばさんに渡すと、バンッと何かを叩きつけられた。
「うおっ!?」
叩きつけられたのはスタンプだった。さっきまでの紙に、丸い朱色が新たに付着している。
「じゃあそれ持ってそっちの通路を突き当りまで進みな」
「い、いやだからちょっと聞きたいことがさ」
「それはあたしの仕事じゃないよ。多分行った先で説明があるから、そこで聞きな」
「は……はあ」
そう言われてしまうとこれ以上は食い下がれない。俺はしぶしぶながらまた言うことを聞くことにした。
ここは石造りの建物。それも結構大きい。中には複数の小さな受付があって、俺はその二つを通ってきたことになる。示された通路はくりぬかれた廊下で、かなり薄暗い。電灯の代わりに松明が等間隔に設置されているようだ。
トットットットッ……と、これは俺の足音。ゴム底のスニーカーを履いているせいで、音はそれほど響かない。革靴なんか履いてでもいたら結構良い音を響かせていたところだろう。
思ったより長い通路の先では扉が閉まっていた。自動ドア……なわけないか。見るからに古臭い木製の扉だ。俺は仕方なく汚らしく変色した金属製のドアノブに手をかけ押し……ても開かないので引いてみた。
ギギギギギギイイイイ……
耳障りな音を立てて開く扉。そこは劇場か講堂のようにも見えた。階段状に並べられた椅子と、そこから一望できる演壇。だけどそこには誰もいない。
「……お?」
足を踏み入れた瞬間、微妙な違和感があった。だがそのことに気を取られるよりも先に重大な事実を発見したため、俺は迷わずそっちの方に注意を向けた。
いたのだ。演壇にはいないが、椅子にはひとり。奥の端っこの方に、女性の姿が。
向こうは俺のことに気づいていないのか、そっぽを向いている。いや、そんなはずはないだろう。扉を開ける時にあれだけ盛大な音を立てたんだ。だから気づいていも、無視している。少なくとも、あまりお近づきにはなりたくないんだろう。
そこで俺は迷うことなく!……彼女とは距離を大きく開けて座った。いや、興味ないわけなんじゃないよ?というかむしろ心細くって仕方ないからすぐにでもお近づきになりたくって仕方ないわけよ?だけどさ、出会って5秒で即声かけみたいな難易度マックスな離れ業ができるくらいなら、年齢イコール彼女いない歴を余裕で築き上げるような真似、逆にできなかったでしょ自慢じゃないけど、本当の意味で自慢じゃないけど。
ちらりと横眼で彼女の様子を盗み見る。こういうストーカー一歩手前の技にかけては自信がある自慢じゃないけど、いや本当はちょっと自慢だけど、いやいや自慢にしちゃだめだけどガチのマジは。
実のところこの席に座ったのもギリギリ彼女の全体像を把握するためだ。右斜め後ろ、45度角。ここからならば向こうからこっちを見るには振り向かなければいけないけど、こっちは見放題。向こうが気配を察知しても目を逸らすだけの時間は稼げるという最適地。くっくっく……それではあやつめのステータスを計測してみようか?
「……なあ?」
黒髪のショートカット……かわいい……目はキリッとしていて……鼻筋は通っていて……
「なあって」
唇はぷるんとしていて……細身なのに胸のふくらみはちゃんとあって……クソ!これ以上は向き合わないとわからない!
「おい!?」
「うわあああ!すいませんお巡りさんつい出来心で!!」
「……ん?お巡りさん?なに言ってんだ?」
「……へ?」
唐突に耳元で叫んできた相手は……見知らぬ男性。年の頃は……大体二十代前半ってところか。
「なあ、あんたも転移組だろ?」
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