第7話「シンデレラ♂の運命」
ー翌日の朝ー
四頭だての立派な馬車がシンデレラの屋敷に入ってきた。
「来た、来たわよ!」
「お城からの使者が私を迎えにきたわ!」
ロジーナとマルグリートのわめき声が響く。
一階の音は屋根裏部屋によく響く、おかげで一階の状況が手に取るように分かる。
逆に屋根裏部屋の音は一階には届きにくい。
継母たちはオレがヤスリで鉄格子を削っているとは、夢にも思わないだろう。
「ちょっとマルグリート! 長女の私が先に履くわ!」
「なによロジーナ! 姉さんなら可愛い妹に順番をゆずりなさいよ!」
義理の姉たちが、ガラスの靴を履く順番でもめだしたようだ。
「二人ともケンカはおやめ、使者様の前でみっともない。ロジーナあなたから履きなさい」
もっともめていればいい時間稼ぎになったのに。
「いや~~!
ロジーナの
「姉さんには無理よ、私が履くわ」
義理の姉のロジーナとマルグリートがガラスの靴を履こうと、必死になっている。
「なんでかかとが入らないの~~! だれか私のかかとを切り落として~~!」
姉妹そろって、似たようなことを叫んでいる。
すくすくと育った巨人のように大きな足が、小さなガラスの靴に入る訳がない。
オレはネズミたちの協力もあり、窓枠の
鉄格子をあと一本切れば、小さなシンデレラの体なら窓から抜けだせる。
ロジーナとマルグリート、ガラスの靴を履くためにめいっぱいあがいてくれよ。
王子の使いはロジーナとマルグリートに早々に見切りをつけたようで「この家に他にお嬢さんはいませんか?」と訪ねてきた。
継母が「おりません」と答える。
まあ実際オレは娘じゃなくて息子だし、継母はうそは言ってない。
「シンデレラがいるけど、男だしね」
長女のロジーナが余計なことを口走る。
「シンデレラとは?」
「関係ありませんわ、シンデレラは男ですし、使用人同然の子ですもの」
継母が冷たく言いきる。
いいぞ継母、頑張れ!
「そのシンデレラという子の容姿は、もしかして女性のように美しいのではありませんか?」
使者が息子の存在に食いつく。
こんなセリフ、絵本にはなかったぞ。
絵本のシンデレラは女の子だからな、こんなやりとりがないのは当然か。
良い子に読ませる絵本で、男の娘とBLはないわな。
「それはどういう意味ですか?」
次女のマルグリートが訪ねる。
「王子の命令で、国中の娘と女のように麗しい
王子のやつ割と抜け目がないな。
「それでしたら、なおのこと関係ありませんわ。あの子は背も高く体つきががっしりとしていて、
継母がオレの悪口を言う。
全部でたらめだが今はよくやった! と継母をほめたい気分だ!
「あらなにを言ってるのお母様? シンデレラは女顔よ」
「体つきも
空気を読めよ! ロジーナとマルグリート!
そうこうしているうちに、三本目の鉄格子が折れた。
よし! これで逃げられる!
オレはドS王子とも、中年子爵とも結婚しない!
鉄格子の間に体を入れ、小窓から外に出ようともがく。
一階から、「シンデレラという子に会わせなさい!」とわめく使者の声が聞こえる。
継母の制止を振り切り、使者が階段を上ってくる。
オレは小さな体を器用に折り曲げ、小窓から外に出た。
小さな窓だから、継母や使者は追ってこれないだろう。
そのまま屋根をつたい庭の木につかまり、中庭に下り立つ。
使者が屋根裏部屋を訪れ、シンデレラがいないことに気づいたようだ。
「シンデレラという息子をどこに隠したのですか! 隠すとためになりませんよ!」
「シンデレラなんて子、最初からおりませんわ」
屋根裏で継母と使者がもめているようだ。
この
オレは裏口まで走り、戸を開ける。
この扉を開ければ……オレは自由だ!
☆☆☆☆☆
戸を開けたオレは言葉を失った。
「やぁ、また会えたな」
馬に乗った数十人の兵士が裏口をかためていた。
兵の中央に白馬に乗ったフィリップ王子の姿が……!
「なんで、ここが……?」
オレの血がサ――っと音を立てて引いていく。
「独りでに歩く靴とは便利だな、魔法か、それも信じよう」
王子の言葉にすべてを理解した。王子はガラスの靴のあとをつけてきたんだ。
「それがおまえの本当の姿か? ボクは一度見た人間の顔を忘れない。服装を変えたぐらいでは
おかしいと思った。
絵本では使者は国中の家々を回り、シンデレラの家をおとずれるのは最後だった。
今は午前中だ、国中の家々を回ったにしてはシンデレラの屋敷につくのが早すぎる。
昨夜王子はガラスの靴の半足だけを放ち、靴のあとをつけさせた。
シンデレラの家もガラスの靴の持ち主も突き止めていた。
おそらく、オレが継母に屋根裏部屋に閉じ込められたことも知っていたのだろう。
なにもかも知ってた上で、ロジーナとマルグリートにガラスの靴を履かせ、タイミングを見計らって使者を屋根裏部屋に行かせた。
屋根裏部屋から脱出したオレが裏口から逃げるのを見越して、裏口で待っていた……。
だとしたらこいつ、そうとう性格が
冷淡でひねくれているうえに根性が悪い王子様に、背筋がゾワリとした。
「さぁボクの手をとれ、城では父上が結婚式の準備を整えている、お前は身ひとつで来ればいい」
王子が涼やかにほほ笑む。
「あれが昨夜の姫?」「全然違うじゃないか」「服がボロボロだ」「使用人ではないのか?」
シンデレラ《オレ》の姿を見て兵士たちがささやく。
魔法使いのおばさんが現れ、オレを昨日のドレス姿に変える。
ドレス姿のオレを見た兵士たちが、「おお! 確かに昨夜の姫だ!」「美しい」「綺麗だ」とざわめく。
魔法使いがオレに向かってウィンクをした。魔法使いはわたし気がきいてるでしょう? 絶妙なタイミングで現れたでしょ? よくやったでしょ誉めて、という顔をしていた。
余計なことを……オレは魔法使いをジトリと睨む。
魔法使いはオレに睨まれた意味が分からないようで、首を傾げていた。
「さぁ行こうか、ボクの姫君」
王子がふんわりとほほ笑む。
それはそれはまぶしいくらいきれいな笑顔だった。目は氷のように冷たかったが……。
絵本のフラグは折れなかった。
どうやらオレは、王子様と結婚するエンドから逃げられないらしい。
第一章・完
第二章も完結してるのですが、第一章より長いので、閲覧数とハートの数を見て投稿します。
転生したらシンデレラ♂でした、舞踏会なんか行きたくないので家出することにします まほりろ・新刊発売中・コミカライズ企画進 @tukumosawa
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