「裸じゃありません!こういう模様なんです!」③ラスト

 いきなり、胸の谷間に出現したカラーなタイマーを指差して、ワナワナ震えながら質問する華奈。

「な、なんですか? コレ?」

「言っただろう巨大ヒーロー定番の『カラーなタイマー』だよ──念のために言っておくけれど……そのカラーなタイマー引き抜いたり、点滅が消えたら死ぬから」

 タマタマンが続けて言った。

「少しカラーなタイマーがある箇所が、夏場は汗で痒くなるかも知れないが我慢しろ……阪名華奈は、これからの人生は、巨大ヒロインに変身して怪獣や宇宙人と戦うんだよ……心配するな、おまえは一人じゃない。

この星のダークネス細胞に汚染されていない、怪獣や宇宙人や怪人やヒーローがおまえに力を貸してくれるそうだ。

まず、その力を使いこなすためには……と」

 立ち上がったタマタマンは、華奈の額を片手で包むようにつかんで言った。

「脳内に予備知識として、怪獣図鑑の知識をインプットしないとな……少しだけ我慢しろ」


 華奈の頭の中に、華奈自身には必要としない、怪獣図鑑の知識が流れ込んでくる。

「あぁぁ……やめ……」

「おぉ、ロクに勉強していないから脳の空き容量が多いぞ、ついでだから妖怪図鑑と幻獣図鑑の知識も入れておいてやるか……わはははっ」

「ひーっ!! 頭の中を一反木綿とグリフォンが飛び回っているぅ」

 華奈の人生にはまったく必要のない、知識の植えつけを終了したタマタマンは、華奈の額から手を離して言った。

「とりあえずは、巨大ヒロインに変身する時は、その手首のブレスレットが変身アイテムだからな」


 華奈は、タマタマンの隣に立っているゴスロリ幽霊に質問する。

「病室に現れた時から、ずっと気になっていたけれど……どうしてタマタマンと一緒に出てくるの? 幽霊なら早く成仏したら、南無阿弥陀仏」

「ワレ、なめとんのか……幽霊なんかいないって言っているだろうが! これは脳が見せている幻だ、悪美って名乗っておいてやるわい……ワレにとり憑いている理由は、そのうちわかる」

「悪美? 悪霊! 悪霊退散!」

「ワレ、マジで耳の穴に指突っ込んで脳ミソほじくり出すぞ」


 その時──院内に怪獣キングマザードンの出現と避難を告げるアナウンスが響いた。

 タマタマンが目を光らせながら言った。

「やっぱり、出たか……華奈、変身して戦闘だ!」

「イヤです……怪獣と戦うなんて」

「……………………」

「なんで、牙や爪がある怪獣と、あたしが戦わないといけないんですか……これって人間が素手で、火を吐く猛獣に立ち向かうようなもんですよ……絶対にイヤです!」

 正論だった。

 タマタマンの口が少し開き、二股に割れた蛇のような舌先がペロッペロッと出る。まるでハ虫類を連想させるタマタマンの変貌に、華奈は少しビビる。


 タメ息を漏らしながら、タマタマンが言った。

「しかたがない、自主的に変身してくれれば、こんな手荒なマネはしたくはなかったのだが……」

 タマタマンは華奈の前面から迫り、壁に背を密着させた華奈は両手壁ドンされているような状況になった。

「な、な、なにをするつも……ひぃぃぃ」

 接近するタマタマンの顔──そのまま、タマタマンは華奈と重なるように融合で憑依した。

 外見はそのままに、体の中にタマタマンを取り込んだ華奈がタマタマンの口調で言った。

「最初だけだからな……変身の手順を教えるだけだからな、二回目に変身する時は体が勝手に覚えていて動く」

 タマタマンに憑依された華奈は、ブレスレットをした手を天井に向けて自分の名前を叫ぶ。


「カナァァァァァァ!」

 光の中から巨大化した阪名華奈が現れ、裸体が病院を破壊する。

 巨大ヒロインの突然の出現に、悲鳴を発して逃げ惑う病院職員と入院患者。

 巨大化した華奈はポーズを決めると、登場時の口上でヒロイン名を名乗った。

「光の巨人【サカナカナ】(うわぁ、勝手に本名言っちゃったよ!? しかも、あたし裸!?)」


 巨大化した華奈の体は、首から下が銀色の下地ボディに赤い模様が描かれた、ボディペインティングされたような姿だった。

 咄嗟に華奈は、スマホのレンズを向けている人たちに向かって言った。

「裸じゃありません! こういう模様なんです!(あたし、ナニ言っているんだ)」

 華奈の前方には、鼻の下にトランプのキングのようなヒゲを生やして、頭に王冠を乗せた。

 キングマザードンが長い尻尾を左右に揺らしながら近づいてくる。

 華奈の体の中にいる、タマタマンの声が華奈に聞こえてきた。

「さあ戦え、大丈夫だ……キングマザードンの、あの長い尻尾の振り回し攻撃だけを注意すれば……こらっ、手で体を隠していたら戦えないだろうが! 手をどけろ華奈!」

 泣きそうな顔で、腰を屈めて胸と股を手で押さえた華奈の周囲には、報道のヘリコプターが飛び回り、撮影した華奈の裸を世界に向けて中継している。

 半分鳴き声混じりに華奈が言った。

「だって、どう見てもこの姿、全裸ですよ……あっ、後ろの方から撮影されると、お尻の谷間が見えちゃう」

「ケツの谷間が見えるくらいなんだ! いいか、胸のカラーなタイマーが赤くなってピコッピコッ点滅がはじまったら、光線を怪獣に向けて放て……光線発射のポーズは、華奈に任せる」


 キングマザードンの振り回す尻尾が、裸の巨人少女を襲う。

「きゃあぁ、下からの撮影はダメぇぇ、レンズ向けないでぇ」

 華奈の胸の谷間にあるカラータイマーが赤く点滅をはじめた……ピコッピコッ

 タマタマンが言った。

「エネルギーの消滅早っ……そうか、まだ華奈が体の使い方に慣れていないから、精神負担で余計なエネルギー消費が加速して……手をどけて堂々と戦えるようになれば、しかたがない……華奈、今回は光線出して怪獣を仕留めろ」

「急に光線出せって言われても……きゃあ!」

 キングマザードンの尻尾攻撃でバランスを崩して、M字開脚座りした華奈。

 しかたない様子でタマタマンが助言する。

「今回だけの特別サービスだぞ……両足を十字に組んでみろ」

「こうですか?」

 十字に組んだ華奈の足のスネから、熱光線が迸り怪獣に命中する。

「あたしの足から何か出た?」

「冗談でも試してはみるもんだな、カナシュウム光線と名づけよう」

 

 咆哮するキングマザードン。

「グギャアァァ! 覚えていろぅ、必ず復活してやるぅ、グギャアァァァァァァ!」

 爆発するキングマザードンの体──肉片が周囲に飛散する。


「怪獣が……喋った?」

 怪獣を倒した華奈の体が光りに包まれ、等身体にもどる──直後、SNSに裸女の女子高校生が、慌てて逃げていく場面が投稿された。


 キングマザードンの肉体が爆発拡散した直後──現場近くに倒れていた、エプロン姿の若い主婦の体にキングマザードンの肉塊から、黒い霧のようなモノが流れ込んできた。

 すべての霧が流れ込んだ、買い物途中の若い主婦が立ち上がる。

 主婦の、鼻の下にはトランプのキングのようなヒゲが生えていた。

 若い主婦が言った。

「やはり、ダークネス怪獣と人間が融合合体した『人間怪獣』じゃないと、巨人ヒーローには太刀打ちできないか……おもしろい、この星に集まれダークネス怪獣たち」


 冷たい笑みを浮かべる怪獣主婦に、駆け寄ってきて手を握って小学生低学年の女の子が、ヒゲが生えた母親を見上げて訊ねる。

「ママ、今夜のオカズはなに?」

 キングマザードンに体を乗っ取られた母親は、近くに落ちていた、キングマザードンの肉塊を有料レジ袋に入れて娘に言った。

「今夜は、おいしいハンバーグよ……新鮮なお肉が手に入ったから」

「わーい、嬉しいな♪ママ大好き♪」

 母と子は、手を握って家へと帰って行った。



第一話・裸の巨人~おわり~


次回……

第二話・パンツ儚い人生


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