「裸じゃありません!こういう模様なんです!」②

 次に華奈が意識を取り戻したのは、病院のベットの上だった。

 手足の数ヵ所に包帯を巻かれ、病院の白い天井を仰ぎ見ている華奈に、近くにいた準看護師の女性が言った。

「運が良かったですね、あなたが助けようとしていたゴスロリ少女は、可哀想なコトに巨大ヒーローの尻圧死で命を落としてしまいました……怪獣と巨大ヒーローも姿を消して」

 華奈は自分の手首にハメられた、銀色のレア物ブレスレットを眺める。


 準看護師の女性は、配膳しているトレイの上に乗った病院食を、華奈の近くのテーブルに置いて言った。

「食事、ここに置いておきますね…診察した先生もビックリしていましたよ、まるで化け物みたいな回復力だって……入浴も大丈夫だそうですから、病院のシャワールームを使ってもいいですよ…明日には退院ですから」

 そう言い残して準看護師の女性は、病室から出て行った。


 一人になった華奈が、手首のブレスレットを眺めてニヤニヤしている。

「へへへっ、ラッキー♪ なんだかわからないけれど、命拾いして欲しかったグッズも手に入った」

 と、近くから聞き覚えがある女性の声が聞こえてきた。

「ワレ、人から奪ったブレスレット眺めて。なにニヤニヤしとんじゃ、ボケがぁ」

 声が聞こえてきた壁際を見ると、額に幽霊がつけている三角形のアレをした、ゴスロリ調の女子中学生が壁に背もたれした格好の腕組み姿勢で、華奈を睨みつけていた。

 少女は額の白い三角頭布を指差す。

「こっちは、コレになっちまったっていうのによ……なんで、略奪者のあんたは生きているんだよ」

 セオリーに添った、わかりやすい幽霊だった。


 華奈がゴスロリ幽霊に頬をヒクヒクさせていると、ベットの反対側の病院食が置かれていた、テーブルの方から男性の声が聞こえてきた。

「まったく、冗談じゃないよ……オレの尻餅の下敷きになって、亡くなったゴスロリ少女から聞いたぞ。

救助をしている勇敢な女子高校生かと思ったら。略奪していたそうじゃないか……そんな、人間をうっかり復活させたなんて……巨大ヒーロー仲間に知られたら、いい笑い者だ」

 額にサイの角を生やした等身のタマタマンが、椅子に座って華奈の病院食を食べていた。

「この食事、病院のメシにしては美味いな……完食、ごちそうさん」

 食べ終わったタマタマンは、どこからか取り出した爪楊枝をくわえて、どこかの親父の食後みたいにシーハーシーハーしている。

 悲鳴を発する華奈。


「きゃあぁぁぁ!!!」

 華奈の悲鳴を聞いた準看護師が、病室に走ってきた。

「どうしました? あら? もう食事終わったんですか? 早いですね」

 華奈はゴスロリ幽霊と、タマタマンを交互に指差す。

「そ、そこにゴスロリ少女の幽霊と──タマタマンが!」

 準看護師は、華奈が指差している場所を凝視しながら言った。

「誰もいませんよ」

「ちゃんと見てください、楊枝くわえてこっち見ています!」

「はいはい、後でお薬をあげますからね……入浴できますから」

 準看護師は、それだけ言うと忙しそうに去っていった。


 ゴスロリ幽霊が、ふふんと小バカにしたように鼻を鳴らす。

「ボケぇ、幽霊なんかいるか……幽霊ってのはな、脳が見せている幻だ」

 続けてタマタマンが言った。

「その通り、これは華奈だけが見えて聞こえている幻視と幻聴みたいなもんだ……他人には見えていないし、声も聞こえていない」

 ゴスロリ幽霊とタマタマンの話しを聞いた華奈は思った。

(すげぇ、幽霊とタマタマンが自己の存在否定している)


 ポカンとしている華奈にタマタマンが言った。

「阪名華奈、君は不慮の事故で命を失った……オレが、君に命を分け与えて復活させた……残念ながらゴスロリの少女までは再生復活できなかったが、南無阿弥陀仏」

 華奈はタマタマンの臀部を無言で指差す。

 咳払いをしたタマタマンは、誤魔化してスルーして話しを進める。

「コホンっ、オレが戦っていた、あの怪獣は宇宙から来た『原種母体怪獣キングマザードン』……よく、死んだ怪獣を頭上に抱えあげた巨大ヒーローが怪獣を空へ運び去っていくシーンがあるだろう……あの死んだ怪獣を、どこへ持って行くと思う?」

「宇宙にある、亡くなった怪獣を埋葬する墓地とか?」

「宇宙で、そんな不法投棄みたいなマネができるか……昨今は死んだ怪獣は『怪獣火葬場』に運び込まれて火葬にされるんだよ、マザードンは火葬場の責任者だった」

 タマタマンの話しだと怪獣火葬場の所長をやっていた、マザードンは連日持ち込まれる怪獣の火葬に、疲れきってうんざりしていたらしい。


「マザードンもストレスから、免疫力が低下していたんだろうな……怪獣の遺体から完全に除去されてなかった微量の『ダークネス細胞』に汚染されてしまった」

「ダークネス細胞って?」

「怪獣を凶悪化させるレトロ因子だ、免疫抗体を持っていない怪獣が汚染される……マザードンは『原種母体怪獣キング・マザードン』に変異して、火葬場から逃げ出して地球に──地球の近くをたまたま通りがかった、オレがマザードンを発見して戦闘に……その後の展開は知っての通りだ」


 タマタマンとゴスロリ幽霊の姿が透過しはじめ、後方の壁が見えはじめた。

 タマタマンとゴスロリ幽霊が言った。

「そんじゃそういうことで、これからよろしく頼む……ボランティアで命を分け与えて生き返らせたワケじゃないからな」

「その手首にハメているブレスレットは、風呂に入る時でも外せないからな……ざまぁみろ」

「ち、ちょっと肝心な部分がまだ不明……なんのために、あたしを生き返らせて? ゴスロリ幽霊は、どうしてタマタマンと一緒に? あっ、消えちゃった」

 しばらく、幽霊が消えた壁を見ていた華奈は、ベットから降りると。

 汗をかいた体にシャワーを浴びるために、病院の浴室に向かった。


 シャワールームで、全裸になって温水シャワーを浴びながら、華奈は考える。

(一度死んで、巨大ヒーローが生き返らせたってコトは、ボランティアじゃないって言っていたから、何か目的があるよね)

 シャワーを浴びる華奈の胸の谷間が、ムズ痒くなってきた。

 華奈が痒い部分を掻こうとした時──谷間から、皮膚を破って金属製のカラータイマーのようなモノが露出してきた……メキッ、ムリッ


 突如、出現した青いカラータイマーに悲鳴を発する華奈。

「きゃぁぁぁぁぁ!?」

 シャワーボックスの外で、ヤンキー座りをしたタマタマンの声が聞こえてきた。

「やっと生えてきたか、それ幻じゃないから」

 ヤンキー座りをしているタマタマンの隣には、ゴスロリ幽霊も立ってニヤニヤしている。

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