特殊処理的ロボット怪獣『メカカナ』登場②


 同時刻──出現した怪獣を倒して、人間サイズにもどった。

 阪名華奈は赤面しながら裸で自宅の自分の部屋に飛び込んで、部屋でマンガを読んでいたタマタマンに向かって怒鳴った。

「なにが! アポには見えない水着ですか! 普通にスッポンポンじゃないですか!」

「どうした? 何があった?」

「どうも、こうも!」

 部屋でタマタマンと一緒に、スマホ画面のマンガを読んでいたゴスロリ幽霊の悪美が、華奈の怒鳴り声に顔を上げる。

「変身解除後に、念のためにコンビニの前でたむろしていた。偏差値が低そうな人たちに『あたし、なにか着ていますか?』って訊ねてみたら、エロい水着を着ているって答えました」

「着ているならいいじゃないか」

「試しにコンビニから出てきた、偏差値が高そうなインテリ眼鏡な会社員にも、あたしがどう見えているのか聞いてみたら。

『メガネに虫が止まっていたり、汚れが付着しているので肝心な箇所は見えませんが……あなた、裸です』って言われたんですよ! アポには見えない水着じゃなかったんですか」

「あーっ、そのコトか。言い忘れていたが、アポな地球人には見えない時と、偏差値高い地球人には見えない時のランダムな水着だ、どちらに転がるかはその時の運次第だ」

「それって結局、裸と同じじゃないですか! もう、変身やめるぅ!」

「世話が焼けるヤツだなぁ、しかたがない」

 タマタマンが指笛を吹くと、開いていた窓から白いサラシのような長い布が飛んできて。

 華奈の体に巻きついて裸体を隠す。

 サイの角を額に生やしたタマタマンが言った。

「『イッタンモメン星人』だ、変身解除したらすぐに飛んでくる………それなら、問題ないだろう」

「まぁ、ランダムに見えたり見えなかったりする水着よりは………でも、巨大ヒロイン続けるかどうかは………」

 その時、階段の下から母親が華奈を呼ぶ声が聞こえた。

「華奈、菜摘なつみお兄ちゃん来たわよ、家に上がってもらったから………華奈の部屋に行くって」

 母親の声に続いて、若い男性の「お邪魔します」という声が聞こえた。

 途端に慌てる華奈。

「えっ!? 菜摘お兄ちゃん? うわぁ、イッタンモメンが剥がれない!」

 華奈が、壁のハンガーにかけてあったスタジアムジャンパーを羽織ったのと同時に、ドアがノックされ男性の声が聞こえてきた。

「華奈、部屋に入ってもいいか?」

「ち、ちょっと待って………入っていいよ、お兄ちゃん」

 ドアが開いて、爽やかな男性が顔を覗かせる。

 イッタンモメン星人が巻きついた体に、スタジアムジャンパーを羽織って正座している華奈を見た、菜摘は少し戸惑いの表情をしながら部屋に入った。

 菜摘には、タマタマンと悪美の姿は見えていないようだ。

 笑みを浮かべて華奈が言った。

「菜摘お兄ちゃん、久しぶりだね………もう、こっちの大学に通っているの?」

「先週、引っ越してきた。元気そうだな………華奈も」

 菜摘の視線は自然とイッタンモメン星人が貼りついた、正座をしている華奈の股間へと注がれる。

 菜摘が華奈に、訊ねる。

「その格好、なにかのコスプレ?」

「まぁ、そんなところかな」

 華奈の背後に近づいたタマタマンが、華奈の頭を鷲掴みにして、勝手に華奈と会話をしている男性の情報を探る。

 華奈の口から引き出された情報が漏れる。


 阿栗菜摘 あぐりなつみ──華奈の親戚のお兄ちゃん、小さいころ華奈は、よくお兄ちゃんに遊んでもらいました。

 菜摘お兄ちゃんは、大学生でこの町の大学に通うために引っ越してきました。

 菜摘お兄ちゃんの趣味はジョギング、朝晩この町でも公園周辺を走るんじゃないかな。

 華奈は、菜摘お兄ちゃんのコトが大好き♪


 勝手に情報を引き出され、勝手に口に出して喋らされた華奈の顔が桜色に染まる。

 怪訝な顔で、うつ向いた華奈を眺める菜摘。

 菜摘が言った。

「と、とにかく。あまり、おばさんを心配させるなよ………華奈のお母さん、娘が部屋で誰もいない壁に向かって、ブツブツ会話をしていたり。いきなり怒鳴ったりしているって言っていたぞ………危なくなったら、病院行けよ」

 そう言い残して部屋を出ていった、親戚のお兄ちゃんを華奈は追う。

「待って、菜摘お兄ちゃん玄関まで見送るから」


 華奈と菜摘が部屋からいなくなると、悪美がポツリと言った。

「なかなか、爽やかな好青年じゃないの………あの、親戚のイケメンお兄さんから、巨大ヒロインになるのをやめないように華奈を説得してもらったら?」

「それができたら苦労は………おやっ、スマホになにやら着信が? なになに、こっちも親戚の巨大ヒーロー『イルマ兄ちゃん』からだ──

『明日の朝、地球に赤い精神球体で到着して巨大ヒーロー活動をはじめるから、人間の器の用意をよろしく、イケメンの若い男体を希望』──イルマ兄ちゃんは、いつでも突然のお願いだな。

そんなに都合よく、イルマ兄ちゃんの器になるような健康体でイケメンの若い男なんて簡単に見つかるワケが……あっ!? さっきまで、この部屋にいた」


 翌朝──公園をトレーニングウェア姿で、爽やかにジョギングする菜摘の姿があった。

「はぁ、はぁ、はぁ」

 スポーツタオルを首に引っかけて、健全な運動をしている菜摘が走ってくるのを、茂みの中から待ち構えている邪悪な目があった。

 茂みの中に潜んでいるのは、タマタマン、悪美、そしてタマタマンの親戚で、赤い精神球体のイルマ兄ちゃんだった。

 近づいてくる、菜摘を見て悪美が言った。

「来た来た、この場所から体当たりすれば、道路まで吹っ飛ぶね」

 何も知らずに走ってくる菜摘、タマタマンたちが潜む茂みの前を通過した瞬間、タマタマンが叫ぶ。

「今だ! イルマ兄ちゃん! 横から追突だ!」

 雄叫びをあげて突進する赤い球体。

「うおぉぉぉぉ!」


 茂みから飛び出してきた赤い球体に、側面からドド~ンと激突された菜摘の体は宙を舞い。

 車道へとぶっ飛び、走ってきたトラックや乗用車に、まるでビリヤードの球のようにボンッ、ボンッ、ボンッと次々と弾かれ。

 歩道にグシャッと落下した。

 しばらくすると、遠方から救急車のサイレンが聞こえてきた。

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