命短し暴れろ乙女②


 その時、玄関のチャイムが『ピンポーン』と鳴って。

 宅配業者の「お届けモノです」の声が聞こえた。

 拳大サイズの耳垢を、耳掻きでほじくり出したタマタマンが、華奈に言った。

「たぶん、オレ宛に届いた荷物だ……華奈、悪いけれど。オレの代わりに受け取ってきてくれ。耳クソでかっ!? 脳ミソじゃないだろうなコレ?」 


 華奈は宅配業者から、受け取った荷物の小箱を持って部屋に戻ってきた。

 手の中に収まる20センチほどの長方形な、段ボールの小箱だった。

 タマタマンが言った。

「フタを開けて中を見てみろ、華奈のために作ったモノだ……すでに、工場量産と店舗販売の体制は整っている」

 華奈は小箱を振ってみた、カタカタと小さな音がした。

 フタを開けた箱の中から現れたモノに華奈は絶句する。

「なっ!!」

 宅配されてきた箱の中には、15センチほどの華奈の裸体巨大ヒロイン姿の『フィギュア』が、緩衝材と一緒に入っていた。

「なななななな、なんなんですか!? コレ!?」

「おまえの変身アイテムだ、変身ドールでもメタモルフォーゼ・ドールでも、アルティメット・ドールでも好きな呼び方でいいぞ……華奈のネーミングセンスを、採用して商標登録するから。ブレスレットにフィギュア人形の足の裏をくっけてみろ」

 華奈が言われた通り、手首のブレスレットにドールの足の裏を密着させると、ドールから華奈の声で。


「『裸じゃありません! こういう模様なんです!』」の、音声が聞こえてきた。

 

「いつの間に、あたしの声を録音して」

「変身する時は『カナアァァァ!』と叫べば変身できるぞ……今はやるなよ、家が壊れる」

「なに、勝手に断りもなく。人のフィギュアを作って! ちょっと待ってください……さっき、工場量産とか、店舗販売とか、商標登録とか?」


「来月には、オモチャ屋の棚に【サカナカナ】の人形が並ぶ予定だ……体に、あの白いプラスチックのヤツ、くっけて並列で吊られるぞ……あははは、たくさん怪獣を倒せよ。サカナカナ」

「ひいぃぃぃ!」

 華奈は、首から下が銀地に赤い模様が描かれた、自分の裸体フィギュアが店舗に置かれた情景を想像して、もう一度悲鳴を発した。

「もう、お嫁にいけない! ひいぃぃ」


 とある安アパートの一室で、一人の着物姿の美少女が愁いだ表情で窓の外を眺めていた。

 裾や袖の方から薄水色のグラデーションになった、和装姿の美少女は、青々と繁った木の枝に針金でガッチリと留められた、一枚だけ別種アイビーな葉っぱの造花を見てタメ息をもらす。


「はぁ……あの最後の一枚が散ったら……あたしの命も……人生は儚い、あたしは着物でパンツ穿かない」

 ちゃぶ台の周りで家族が集まって食事をしている中。

 皿に盛られたハンバーグを食べているアノマノカリス性格の母親が、アパートの窓辺で哀愁に耽っている娘に言った。

「薄羽〔うすは〕、早くメシ食べちまいな……おまえが食べないと、片付かないんだよ」

 薄羽と呼ばれた、薄幸の美少女は、食卓の茶碗に盛られた山盛りの白米を一口分だけ箸でつまんで口に運ぶと、箸を箸置きに置いて両手を合わせる。

「ごちそうさまでした……ゴホッ!?」

 家族から顔をそむけて、口元を押さえた薄羽の手に赤い液体が……ヨロヨロと立ち上がった薄羽が呟く。

「こ、これは。まさか? ケホッケホッ」

 母親が薄羽の手からケチャップのチューブを奪い取って、自分の小皿に取り分けたハンバーグにかけながら言った。

「食べ残した茶碗のご飯は、いつものようにオニギリにして、ハンバーグのオカズと一緒に部屋の前に置いておくからね……ちゃんと、全部食べるんだぞ」

 グーッと、鳴るお腹を押さえながら家族に背を向けた薄羽は、うなづいて自分の部屋にもどった。

 娘の姿が見えなくなると、口の周りをケチャップで汚したアノマノカリス性格の母親が呟く。

「まったく、どこでどう間違ったのか……健康体なのに、自分を薄幸の美少女だと思い込む娘に育っちまって」


 自分の部屋に入った薄羽は、ヨロヨロと力弱く床に横座りで座り込んだ。

「あぁ……あたしは薄幸の美少女、あたしより長生きしている者たちが羨ましい………憎い」

 薄羽のその言葉に応じるように、部屋の開け放った窓から声が聞こえてきた。

「その願い気に入った──我と同化せよ」

 窓の方に目を向けた薄羽の顔が、恐怖に固まる。

 そこには、等身のウスバカゲロウが触覚を揺らして薄羽の方を見ていた。

 巨大なウスバカゲロウが言った。

「キング・マザードン殿から紹介されて来た……怪獣と波長が同調する、歪み心の地球人よ……さあ、ダークネス細胞をその身に受け入れよ」

 カゲロウ星人から、黒い霧状のようなモノが薄羽の体に流れ込んでいく………悲鳴を発する薄羽。

「いやあぁぁぁぁ!」

 数分後──長い触角を頭に生やして、カゲロウの羽を背中から生やした新生『ウスバ』が、立ち上がる。

 薄幸美少女型宇宙人・カゲロウ星人『ウスバ』が、自分の手に握られた大小のカラーなタイマーを見て薄笑いを浮かべながら呟く。

「さあ、地球侵略の開始だ」

 小一時間後──街ではカラーなタイマーを体に付けられ。パニックになる人間や動物が続出した。


 小さなカラーなタイマーを、背中に付けられたセミがタイマーが点滅して消えた瞬間に、地面に落下して絶命したり。


 散歩中の犬に付けられたカラーなタイマーが、ピコッピコッ点滅して犬がパニックで吠えたり。


 OLや会社員が、胸や背中に張り付けられた、カラーなタイマーの点滅音にパニックになった。


 パトカーや救急車のサイレンが鳴り響く中、ビルの屋上から大混乱している街を眺める、カゲロウ星人『ウスバ』は腹の底から大笑いをしていた。

「ざまぁみろ! この調子でカラーなタイマーを使って、地球征服してやる……あはははははははっ………ケホッケホッ」


 その時──ビルの下から。

「カナァァァァ!」と、いう声と、光りの輝きの中から『裸体巨大ヒロイン【サカナカナ】』の屋上から覗く肩から上の部分が出現して、屋上にいるカゲロウ星人を見下ろした。

 タマタマンの声が華奈だけに聞こえてきた。

「さあ、華奈。屋上にいるカゲロウ星人の虫けらを握りつぶせ!」

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