現代文の時間
「それじゃ、今日の連絡は以上です。今日も一日頑張ろうね~」
いつものごとく緩い感じで担任の先生がかるくしめ、朝礼が終わった。
一限目は現代文だ。
(朝から眠い授業だ。ってか今日何やるんだっけ。)
そんなことをぼんやり考えながら授業の準備をする。
「はい、授業をはじめます。みんな顔上げて、日直号令をお願い。」
現代文の先生が授業にはいってきて号令をかける。
起立、気を付け、礼ーーー
今日の授業は前回からやっている小説の続きで、先生がここの部分はどうとかこうとかを必死に説明しているのを俺はノートをとりながらもぼんやりと眺めていた。
ここ上善学園はその知名度故か、その通っている一部の生徒の家柄のよさ故か、それとも設備の良さの故かなにかはわからないが人気が高く偏差値も高い。
それに応じてか一流の先生を引き抜いているらしく、授業のレベルも高い。
中学受験で身の程をわきまえず受験し、たまたま運よく入ってしまった俺にはついていくのにも大変だった。
特に、数学や理科系の科目は予習してないと授業で何言っているのかほとんど理解できない。
そんなわけで授業中寝ている暇なんかない。
だけれども、今日はそうもいっていられなかった。
先週発売されたばかりのゲームを昨日4時ぐらいまでやってしまいめちゃくちゃ寝不足なのだ。そのうえ今日の午後には体育がある。
もうすでに頭が重く、本音はうつぶせになって寝てしまいたい。
が、優等生が多いこの学校では授業中にそんなあきらさまに寝ている人間はおらず、そんなことをすれば即先生の目につき、よくて罰として面倒な仕事、最悪通知表の成績に影響してしまう。
したがって俺は頭を動かさず、
ただただ先生の板書を書き写すマシーンと化していた。
(一時間目が現代文でよかった。とりあえずノートさえとればなんとかなる。)
…。
「じゃあ、これまでの説明をきいて、この主人公の行動についてどう考えるか聞かせてもらえるかな?適当に2,3人あてるね。」
そんな俺の眠気に支配された脳は、突如先生の言葉によって一瞬で目が覚めさせられた。
(まじで??今日の授業内容ほとんど頭に入ってないが??)
急いで教科書とノートに目を通すが、なんせ頭が動き始めたばかりで目が滑り、
なにも頭に入ってこない。
(どんな授業でも嫌だけど、今日はほんとに嫌だ。あてないでくれ。)
俺は心の中でそう必死に願う。
「じゃあ、今日は14日だから、じゃあ出席番号14番の人で。誰かな?」
(よかった。俺は14でも14の倍数でもない。)
そうほっと胸をなでおろす俺に、後ろから聞きなれた声が教室に響く。
「はい。私です。」
一つ右の、二個後ろ。そこが今の東雲唯の席だ。
何とも言えない微妙な距離だが、隣は論外として、授業中に視界に入ってこないだけでもありがたい並びだった。
授業中にほかのことを考えてしまうようなことはできるだけ避けたい。
「私としては、主人公の行動に賛同も評価もできません。」
たんたんと彼女が意見を述べ始める。
(きれいだな。)
斜め後ろをちらっと盗み見しながらぼんやりと思う。
女優にもなれそうな整った顔に、真っ白で透明感のある肌。
手入れの行き届いたさらさらした黒髪。
一つ一つの動作が優雅そのもので、いつだって上品に存在している。
そう、彼女は本当に美しい少女だ。
日本有数の名名家に生まれ、勉強もスポーツも何でもできる。完璧な少女だ。
そんな彼女を、現に今発言している彼女をクラスメイトの多くが憧れをこめてみているのがわかる。
ああ、俺も彼らのような立場に入れたらどんなによかっただろ。
友人にも、ましてや恋人にもなることなんて考えず、ただただ学校の高嶺の花にあこがれ、遠くから見つめ、時に数言会話を交わしただけで舞い上がる。
そんな立場にいたかった。
-「以上の理由から、主人公の行動は行動による影もを考えないいたって短絡的なも
のであると思います。しかし、このように直観に従い自分の思いのままに動ける
主人公に羨望を抱く人もいるともおもいます。」
等々と述べる彼女の声が教室に響く。
でも、彼女がそれを許してくれない。
彼女は俺をほっといてくれない。
機会があればなんとか接点を持とうとする。
俺も別にそれ自体が嫌なわけではない。
しかし....
俺は身の程をわきまえている。
自分はいたって一般人で、彼女は特別な人間なのだ。
彼女とは住んでいる世界が違う。
彼女にはもう婚約者がいて将来は約束されたレールがすでに敷かれている。
そこに何者も割り込む余地はない。
割り込むどころか、
ちょっとした噂レベルでも、大変なことになる。
婚約破棄まではならないだろうが、彼女自身がおおきな迷惑を被るし、そこには絶対“噂相手”も巻き込まれる。
それに対抗できる権限も能力も俺はない。
おれは彼らに勝てるところなんて一つもない。
それに、なによりそんなめんどくさいこと絶対にごめんだ。
(わかってるんだろ、かなわない恋だって。なのになんであきらめてくれないんだよ。)
俺は深いため息を一つはく。
いつもの考えにとらわれ、すっかり授業どころではないまま、俺の思考は沈んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます