婚約者のいるお嬢様幼馴染が俺に片思いしているみたいだけど今日も知らないふりして過ごします

@Tokiha-midoriba

登校の時間

俺の名前は西尾陽翔にしおはると

茶色ががった髪に,ほぼ平均身長の 169 cm。

よくあるモブ顔ってやつで、一日引きこもってた次の日に友人に昨日街で見かけたなんて言われるぐらいよくある顔。

勉強もスポーツもまあまあ。良くもなく悪くもなく、至って平凡。


つまり、俺はどこにでもいるいたって平凡な高校1年生。


そんなわけで,俺の日常なんて学校に行って,ちょっと部活やって,

休みの日は家でごろごろしてなんていういたって平凡でありふれた日常話であるはずだった。


しかしながら、そんないたって平凡な人生を生きるはずだった俺だがとある厄介な特異点のせいで、全国のにたようなモブたちから,いやそれどころか、多く男子高校生諸君からは非常にうらやましがられる日常を送っている。


だが言わせてくれ、これはなんもうらやましい状況なんかじゃない,と。



「おい、はよ!」

眠たい目をこすりながら登校していると、友人の林一樹はやしいつきに背をたたかれる。

サッカー部に所属している彼だが、今日は朝練がなかったのだろう。

そのせいか、元気が有り余ってる姿に寝不足のこっちには刺激がつよい。

「ああ、はよ。」

適当にかえして、さっさと教室に向かおうとする俺に対し、一樹は少しあたりを見渡しながら俺を引き留める。

「おいおい、朝からそう冷たくあしらうなよ。で,今日はひとりか?」

何が言いたいかがよくわかるからこそ、俺は思わずため息をつきながら返した。

「今日はって、いつも一人で登校しているだろ。」

「いやいや、だって一昨日あの”唯姫”と、」


そうにやにやしながら言う一樹の声を妨げるように後ろのほうからわっと声が上がる。

普通だったら何があったかと思うことだがこの学園ではいつものこと。

俺はその声が上がった方向さえ見たりしなかった。

なぜなら、何があったかわかっているから。


きっと、歓声の中を腰まで伸びたつややかな黒髪をたなびかせながら颯爽と歩く少女がいるのだろう。

少女の名前は東雲唯しののめゆい

東雲グルーブの一人娘にて、臨海グループの跡継ぎを婚約者に持ち、その目を奪う美しさに国際オリンピックにも出れるような頭の良さ、所属する弓道部では全国上位に入賞したこともある。

まさに『才色兼備』『文武両道』をあらわしたような少女。

なにをとっても完璧な彼女はこの富豪層の子息・子女も多く所属する上善学園でも歓声が上がるぐらい注目の的だった。


学園の数多くの人間が近づきたい・友達になりたい、あわよくば....、なんて思って彼女を眺めているであろう中、俺はさっさと教室に向かおうとした。

しかし一樹が俺のブレザーを引っ張る。


「おいおい、まてよ。せっかく彼女が来るのに、今教室に急ぐ必要はないだろ。」

彼の手を払おうとしながらいう。

「何でも良いだろ。離せ。」

しかし彼はいっこうに離そうとしない。それどころか,俺にこそこそとささやいてくる.

「いやいやまてって、お前がいないと意味ねえんだから。

 いいか、唯姫がきたら挨拶して、それからこううまく今度の試合の話をな...」


そんなせいで引き止められ続けたまま、彼女が近くまでやってきた。


ただ友人と話しているやつがいるなぐらいだろうから気づかないでくれ。

そんな俺の願いはむなしく、彼女は俺たちに気付くと声をかけてきた。


「おはよう、西尾くん。と、林くん。」

そういと彼女はなぜかそこでたちどまったが、そのまま何か続けるというわけではなさそうだ。

(これは逃げれる),そんなここにいる全員に刺されそうなことを考えながらおれは,「よう。」とだけ短く返すと

「あ、おはようございます。東雲さ、、」と東雲に挨拶をされてあたふたしている林を首元を引っ張り「おい、始まるまでに宿題写させるってはなしだろ。」なんて言いながらそそくさとそこを立ち去った。


「ちょっとまてよ、おまえ。せっかく唯姫とはなすチャンスだったに!っていうか宿題ってなんのはなしだよ.....。」

一樹に廊下で文句を言われる。

そんなことしったもんか。

「しるか。だいだい、唯姫なんて気色悪いからやめろ。

 あと、東雲と話したいなら俺を頼りとするな。」

「お前ほんと唯姫とかかわるの嫌がるよな。なんでだよ。

 おまえは唯姫と幼なじみだろ!嫌いなのか?」


そうおれの抱える厄介な問題。それは彼女、東雲唯と幼なじみであること。


大企業のお嬢様と一般家庭の少年。普通なら幼なじみなんて立場にはあり得ないと思う。が、たまたま俺の家は先祖代々受け付いている土地が彼女の家のほぼ隣だった。

俺の家は小さな庭もない一軒家、反して彼女の家は門から車で数分行かないと家にはたどり着けない様なぐらいの豪邸。

そんな差にもかかわらず幼い頃彼女は家を抜け出し近くの公園で一緒に遊んでいた。

普通なら小学校から私立に通うが、家の方針で小学校も公立。若干、いやかなり浮いていた彼女の一番の友人は当時家柄とかにほとんど無頓着な俺だった。


そのままなぜか中高一貫のこの上善学園に一緒に入学してしまったのが運の尽き。

最初は彼女に話しかけられるというだけで目の敵にされていた俺も、

三年間一向に彼女に興味を示さない態度にいつの間にかまわりにあいつは本当に”唯姫”に惹かれないおかしなやつなんだなんて思われ(ついでにゲイ疑惑やらロリコン疑惑やらもだされた。)、

ほとんど男子とは会話をしない彼女に対する

俺は未だ彼女の一番の男友達という枠、なんなら彼女への連絡役にいさせられ続けていた。


その立ち位置は高校一年生になった今でも変わらない。

それどころか、入りたてで東雲と仲良くした意欲がまだ旺盛な一樹みたいな高校からの外部生たちのせいでこの一か月強はさらにその扱いが加速されていた。


「別に、嫌いとかそんなわけじゃねえけど。

 幼馴染だからといって、別にめちゃくちゃ仲いいわけでもないし。そんな話すこともねえよ。」

「はああ?お前ほんと贅沢な奴だな。あの唯姫がせっかく挨拶してくれるのにそれをありがたがらないなんて。」

「はあ、だからそれが別に俺はありがたいことじゃないんだって。

 俺は東雲と話したいとかおもって、」


「私が、どうかした。」

唐突に後ろから声をかけられびくっと後ろを振り向く。

そこにはいつもの無表情で美しい彼女が、東雲唯が立っていた。

(やべっ)という俺の気持ちをみすかすように、

そっと俺の目を覗き込むようにして彼女はづづける。

「私の名前が聞こえたから、声をかけたんだけど違ったかな?」

ただでさえ外見から相手を圧倒させるうえ、言葉のチョイスのせいで冷たささえ感じる彼女の言葉だが、もう慣れてしまっている俺はなんも動じない。


「あ~、えっと、聞き間違いだ。全然関係ない話だ。」

苦笑いをこぼしながら俺は適当にあしらう。

「そう。」

すこし残念そうな響きを持たせながら彼女そういうと、体を教室の方に向け首を少し傾け言う。

「教室、入らないの?」

「ああ、入るよ。ちょっと一樹と話してたからだけで。」

「お、東雲さんおはようございます!さっきぶりですね!」

俺を遮り、後ろから一樹が元気そうに声をかける。

「ああ、林くん。おはよう。今日も元気そうだね。」

「はい!いや、そうなんです。いや、今日は、いい天気で気分が良くて。そう、めっちゃあつくて。まだ、五月っていうのにこの暑さ。でも、この暑さにエネルギーをもらっているというか...。」

どんな会話下手な人間だ。あれだけ話したいなんて言ってるくせに、いざ話すといつだって敬語で話下手になる友人に苦笑いをこぼすしかない。


そういやさっき今度の試合がなんだとか言っていたな。

今日はどうにかしてその話に持っていきたいのだろう。

いつもより際立って話題のチョイスに迷っていることがあからさまだ。


そんなよくわからないことをを繰り広げる一樹に東雲は一ミリも表情をくずさず、

「そうね、いい天気だわ。」とだけ返す。

「そうそう、まさに快晴って感じで。そんな日が続くみたいで、そう、今週末もずっといい天気みたいですよ。」

「そうなんだ。」

「そう、そうなんですよ。」

そのまま無視して教室に入ろうと思ってたが、さてどう続けようと目を泳がせる一樹にいたたまれなくなった俺は仕方なく友人に助け船を出すことにした。


「ああ、今週末って、さっき言ってた部活の試合ある日か?よかった...とはいえないか、めっちゃ暑いだろうな。」

「え、いや。」

突然の俺の助けに驚いて言葉が詰まる一樹に、東雲は「部活の試合?」と俺の言葉を反復する。

「部活...。確か、サッカー部だったっけ?」

「あ,そうです!え、しってるんですか?」

「え、ええ。試合があるの?」

「そ,そうなんです!でも、今週じゃなくて来週の土曜日なんですが。」

「そう、頑張ってね。」


まさかの応援の言葉をもらい、うれしさからか思考停止する一樹をおいて、彼女は教室に入ろうとする。

(おいおい,それはないだろ。)

「あー,それで,お前に応援に来てほしいらしいぞ。」

「え。」

「な、サッカー部として多くの生徒が応援に来てくれると士気が上がるんだろ。」

「あ,そう!ぜひ!!」

やっと、(ほとんど俺の功績だが)目的にたどり着いた一樹が語尾をつよめに訴えかける。


「サッカー部の応援...。」

しかし,東雲はなぜか俺のほうを見る。

なんでこっちを見る。やめてくれ。

「それは、その、その日は西尾くんと...」

彼女のその視線に、その言葉に聞かなかったふりをして、俺は

「まあ、考えといておいてやれ。」とだけいって、

「じゃあ、一樹に宿題写させる約束してるから。」

と彼らをせかしながら教室へと逃げ込んだ。


席に着き、そっとため息をつく。

面倒ごとはごめんだ。だから、できるだけ彼女とは会話をしないでそっと距離を置こうと思っているに今日もまた失敗してしまった。いつだってこうなる。


彼女は俺を見たら話しかけてくる。俺の周りには、いや俺の周りどころかこの学校のほぼすべての人は彼女と話したがる。そもそも彼女を無視することもできないし、そんな友人達を置き去りに行くこともできない。結果、俺は話に加わらざるを得なくなる。


何で彼女と話すことが嫌なのか?別に話ぐらいなんともないじゃないか?

残念ながらそうは言えない。

俺は彼女とそっと距離を置きたい一つの理由が確実にあるのだ。


そう、こっからが俺が抱えているもっと厄介な問題。

「やった。今日は挨拶に加えてちゃんと会話もできた。

 しかも、さっきの応援に来てって誘われたみたいだった。」


さっきの会話の後の彼女はそっと嬉しそうにつぶやいた。それは唯一のすぐ近くにいた俺にだけ聞こえている。


もうすでに将来の相手まで決まっているくせに。

その相手は俺みたいな一般庶民なんか楽につぶせる超名家の息子であるくせに。

この世間知らずなお嬢様は全部を無視して青春をする。



そう、この完璧お嬢様は俺に片思いしているのだ。


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