下校の時間

どっと疲れた一日だった。


ようやく帰れる。今日はゲームもやらないでかえったらもう寝よう。

そう思うと、少しだけした気分も上がり、俺は帰路についていた。

「じゃあな。また明日。」

一緒に返っていた雄馬に声をかけ電車を降り、帰り道をいそぐ。


(疲れたなほんとに今日は。)

寝不足なのに、授業中は変なことを考えてしまったし、昼休みは東雲の件で全然リラックスも気も抜けなかった。体育逆に楽しくなってきちゃってガチになってしまったし。

そう振り返りながら歩いていると、ふと視界にコンビニが入る。

(疲れたときには甘いものだな。なんか買っていくか。)


そう思い適当にお菓子を買い、コンビニを出る。


と、目の前にすーっと横に自動車が止まった。

車の前の見慣れた外国車のマーク。

あ、っと反応する前に、見慣れた制服の少女がおりてきた。

彼女は運転手になにかいい、車は走り去っていく。

そのまますたすたとこちらへ歩いて、そして彼女は俺の前で立ち止まった。

俺もそれに応じてその場に固まってしまう。



がっちり目が合う。

昼の件もあり気まずくて目線をずらすが、そのまま無視して帰るわけにもいかず、どうにもならないまま数秒が経過する。

ちらっと彼女のほうを見ると彼女も斜め下を見たまま動かない。


そのまま数秒、時間がたつ。

このまま待っていてもなにも起きないしこんなコンビニの前でお見合いをするわけにも行かない。しかたなく重い口を開いた。


「えっと、東雲。どうかした?」

ぴんっと彼女の肩がはねる。

「帰る途中に姿を見かけて...。」

「おう、なるほど。」

返事になってない返答になんと返したらわからず、そしてまた彼女もそれ以上なんの返答もなく、しばらくまた沈黙が流れる。


(やべえ、このままじゃずっと向かい合ったまま一日が終わる。)

対面する俺は内心汗だらだらである。


「えーっと、俺になんか用だった?」

おそるおそる聞いてみる。

「あ、その、...。」

そのまま視線を下にむけ、なにか話しているが語尾が聞き取れない。

「ごめん。ききとれなかった。もう一回、言ってほしい。」


「その、今日の昼のことちゃんとお礼を言わなきゃならないなっておもって。。。」


(ああ、あのことか。まじかよ。。。)

忘れようとしていたのに、よりによって本人に話題にされてしまった。

「別にそんな礼を言われるようなことじゃないだろ。」

「そんなことない。...。あのままだったら大勢の前でみっともなくこけるところだったから。ほんとにたすかった。」

顔をあげ、真正面からの感謝の言葉にこっちが逆に恥ずかしくなる。

「そ、そうか。そこまで言われるとこっちもうれしいよ。

 じゃあな、またな。」


そもそもいつも避ける癖がついてる上に、いまだに昼のダメージから回復できなずにいて、東雲とあまり話しておきたくなかった俺はさっさとその場を去ろうとする。


「えっ。」

しかし、彼女から返ってきたのは上擦った驚きの声だった。

(なんかまずいことでも言ったか...?)

帰ろうと歩き出そうとした足を止め彼女の方に再び向き合う。

彼女の目は左右に目が泳いでいる。


「えっと、あとちょっとだし、一緒にかえれたらいいなと思って。」

しどろしどろにいうその提案をむげに断ることもできない。

「あー、なるほど。じゃあ、行こうか。」

ここはなんともない風に受け流し歩き始める。


しかし、あとちょっととはいえ10分ぐらいはある。なにを話せば良いのだろうか。

(学校の話?授業の話?なんか特に話題ないよな...。)

ぱっとうまい話が浮かんでこなかった俺はとっさにさっきの話に戻ってしまう。


「そういや、今日食堂だったよな?めずらしいな。松本さん用事でもあったの?」

「あ、ちがう、いや、そう。今日は作れないって言われて」

「ふーん。でも、松本さん以外でもそうならお弁当作るか買ってきてもらえそうだけどそういうのねえの?」

「あ、いや。わざわざ、わるいかなっておもって。食堂も行っていたかったし...。」

「へー。ってか、行ってみたかったって。いつでもいけるじゃん笑。」

「そんなことないよ。だからといって松本さんにお弁当断るのは悪いし。それに、私がいたらまわりがちょっと騒いじゃって迷惑かけちゃうし。」

「あー、まあ迷惑ではないと思うけど。周りがうるさくなるのはそうだよな。はは。」

少し乾いた笑い声にはなりながらも至って普通に話せている様子にちょっとだけ安心する。


(こうやって、あるいて帰るのもめっちゃひさびさだな。)


「...。そういえば、あの、同じクラスに相川さんって子がいるよね?」

「ああ、相川さんね。どうした?」

「あー、いや。どんな子なのかなって思って。私、あんま話したことなくて。」


いきなりの話題がかわったことよりも、彼女の口からクラスメイトの名前が出てきたことにおどろく。周りから特別扱いされすぎて逆に学校で浮いてる東雲の友好関係はせまく高校に上がってから同じクラスで仲良く話してるのは如月ぐらいしか見たことがない。

(もしかして、友人になりたいんだろうか?)

そう思うと何か話題を提供したいがあいにく俺はそんなに女子とも仲良くない。相川...。たしかクラスで良く騒いでるグループの一員だったはずだ。

「あー、あの結構明るくて話しやすい感じだよな。」

「そう、かわいいと思う?」

「え?」

いきなりの直球な質問にびびる。

「あー、かわいいんじゃね?普通にクラスで人気ある方だし。」

「そう...。」

それだけいうと顎に手を当て彼女は黙りこくってしまった。


一方俺はよくわからない質問に困惑していた。

(東雲はいったいなにをききたいんだろう....。)


「えーと、相川さんと友達になりたいの?」

そこで最初に思ったことを聞いてみることにした。。

「え??」

「いや、急に相川さんの話題を振るから仲良くなりたいのかと思って。」

「あ、、、違う、いや、そう。話せたらいいなと思って。」

そう返す彼女の目はなぜか泳いでいる。

「まあ、確かに高一になってからクラスで如月としか話してる姿みたことないしな。」

「さすがにそこまでではないよ。」


東雲はむっとしたように、すこし唇を突き出し答える。

学校ほとんど見せない感情がちょっとだけわかりやすく見えてきてい言動に懐かしさを感じる。


(小学校のころはこうやっておもった表情がそのまま顔にでてたのにな。)

天真爛漫が、そのまま姿を持って歩いてきたような少女だった小学校の頃のことを思い出してしまう。


(まあ、今目の前にいるのは滅多に表情筋の動かなくなった高校生の東雲だが。)


「そうか?他とそんなしゃべってたっけ?」

「えっと...。」

「ほら、しゃべれてねえじゃん笑。」

「それは,,,。さっきも言ったけど、私がいると周りはざわざわするけど、あんまりしゃべりかけてくれる子少なくて。」

「あー、確かに。」

「もう少し、みんなと仲良くなりたいんだけどね。」

そうちょっと肩を落とし悲しそうに髪の毛をくるくるとさわって見せる東雲に、そんな言葉聞いたらみんなとんでくるぞと内心つっこむ。

みんな仲良くなりたいけどしゃべれていないだけ、それはこの3年間で良くわかってきた。今はまた高校からのメンバーも混じり、さらに特別扱いになっていた。


(たしかに、俺みたいな一般人からしたらちょっとうらやましい扱いだけど、ずっとその扱いをされるのも嫌だよな)


「ちょっとぐらい気を抜いてみたら?」

「え?」

「いつも完璧過ぎるから周りからしたら近づきにくいんじゃねえか?だから、ちょっとぐらい気を抜いてみたら?」

「でも、それは東雲家の人間として。。。」

「いや、気を抜くって言ったって別に変なことしろっていってるわけじゃなえし。 おまえめっちゃポーカーフェースだから、もう少し表情を柔らかくするとかそういうの。それって別にマイナスじゃないだろ。」


「そう、かな?」

「そうそう。東雲と仲良くなりたい奴なんて学校中ごまんといるし、もう少しガードが緩くなればいいんじゃね?」

「...。そうだね。ちょっと頑張ってみる。」


そういって東雲は少し黙り込んでしまった。

(やべ。なんかアドバイスミスったかな)

もしかしたら表情筋が固いというのは気にしてたのかもしれない。

ここに来てコンビニの前に逆戻りだ。気まずい沈黙がながれる。


「まあ。無理にって訳ではないけど。ちょっとぐらいなっ。

 じゃあ、また明日学校で。」

良いタイミングで家に着いた。この気まずさから逃げだそう、とする俺に彼女が突如声をかける。


「は...、西尾くん!」

すっかり分かれる気だった俺は突然名前を呼ばれぎょっと身構える。


「今日はありがとう。いろいろ話せてよかった。友人ももう少し増やせるよう頑張ってみる。」

身構えた俺は肩すかしをくらって情けない声しか出せなかった。

「お、おう。それはよかった。じゃ、」

そうやってまた切り上げようとする俺に対し,彼女は俺の目を見てはっきりと切り出した。


「だけど。だけどね!」


そういつもよりも大きな声で言って、彼女はその綺麗な顔を、大きくくずした笑顔で俺に笑いかけた。


「私、確かに他のみんなとも仲良くなりたい。

 でもね、何より西尾君とももっと仲良くなりたいの!」


いきなりの彼女の満面の笑みを面をくらい変な顔のまま固まってしまう。

そんな俺をみて、彼女が口に手を当てくすくすとわらうと

「ふふ。」

その動作も可憐さを感じる。


「あのね、久しぶりに一緒に帰れてうれしかった。このことはみんなには内緒だね?」

と人差し指を口に当て笑いかける。


2hit。いや、5hitぐらい受けた。

思わぬ連続攻撃にもう俺のHPは残っていない。


そんな俺をほっといて,彼女は

「じゃあ、また明日ね!」とだけ言って門の向こうに消えてしまった。


彼女のこの天然の攻撃を受け、俺は思考が定まらないまま、はーーと頭を抱えてその場に座り込む。


(ああ、これだからこのお嬢様は!!!!!!!!!!!!!!!!!!)

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