番外編2:体育の時間

「じゃあ、女子は今日もテニスね。いつもの通りチーム戦で、それぞれ一対一をしていてくれたらいいから。2ゲーム先取で勝もいつも通り。じゃ、よろしく。」

先生の指示に従い、みんなコートに散らばってくる。


「はー。今日はついに唯とやれるのか~。」

友人の明梨あんりが楽しそうに話しかけてくる。

「そうだね。」

「いくら運動神経抜群の唯ちゃんだって、この一年にしてテニス部期待の次期エース明梨さまがこてんぱてんにしてあげるからね~」

そう楽しそうに彼女は笑う。

心の中はさっきのでごとで心臓が高鳴っているが、悟られないように冷静に返す。


「あら、それはわからないよ。」

「うわぁお、これは宣戦布告?受けて立つよ!」

明梨はニコニコしながら顔をのぞきこむ。


「別に、宣戦布告なんて気はなかったんだけど。」

彼女の気を悪くしたのだろうか。とっさに言い訳を入れる。

「わかってるって~。でも、」

そういってかるく受け流してくれる彼女の姿を見て安心する。

彼女は学校で浮きがちな私にもずっとこんな感じで付き合ってぐれる学内でも有数の大事な友達だった。


そう言いながら肩をストレッチしながら前を歩く彼女が、いきなり振り返った。

「あ、そういや、昼休み食堂いったんだって?」

いきなりいまだに思考を支配することを指摘され心が飛び跳ねる。

「!!!!!!。え、っっっっと。なんで知っているの?」


「そりゃあ、東雲さんが食堂に行ったとなればそれだけでニュースになるよ 私がいなかったとはいえ、恵美とかとたべればよかったのに。」


「それは...。ほかに先約があったりしたら悪いかなって。私も食堂に行ってみたかったし...。」

さすがに本当の理由は言えないから私は適当な言葉でごまかした。


「ほうほう...。なるほど。なんだ、私はてっきり。」

「てっきり?」

明梨がなにを続けようとしているのか、思ったより語調が強くなる私に彼女はへらへらわらいながらうけながす。


「いや~。まあ、いいか。

で、どうでしたか。わが校自慢の食堂の味は?

 確か食堂いったことなかったよね。ここの食堂結構評判いいんだよ?」

あきらさまに濁された感じをみながらも深追いされたくないのでそのままその流れに乗る。

「ええ、おいしかったよ。」

「ほう、東雲お嬢さまの舌にも庶民の味はあったようでよかったです。」

そうからかい気に笑ってくる彼女に私は「もう。」と軽く顔をしかめながら返す。

私にとってこういって軽口を叩ける友達は貴重だ。

(明梨が友達でいてくれてほんとよかったな。)


そんな会話を交わしているとほかのクラスメイトが話しかけてきた。

「東雲さん、明梨、次の試合よろしくね。」

「オッケー。」「わかったわ。」

そう言ってコート横でストレッチをはじめる。


コートの向こう側では男子たちがサッカーをしている。

(そういや、今朝、男子はサッカーだって言ってたな。頑張ってるかな?)

ぼんやりと眺めながらストレッチをする私に同じチームの女子たちの言葉が入ってきた。


「ねえねえ、みて。林めっちゃ活躍してる。」

「ほんとだ。いつもはただうるさいだけのやつだけど、スポーツしてるとかっこいいの詐欺だよね。」

「ほんとそれ。部活の試合とか見に行くとちょっと惚れちゃいそうだもん。」

「わかる~。えー、あいつ彼女いたっけ?」

「いや?ちょっと前に一個上のサッカー部のマネとわかれてから何にも気いかないな。現にたいていは男子とつるんでるじゃん。」

「確かに。えー、じゃあ林彼女いないなら狙っちゃおっか?」

「えー、まじでいってる?」

「まじまじ!」

「まじか?あんたはどう思う?」

「ん~、いいんじゃない?でも、彼氏にするなら私は林くんより彼と仲いい西尾くんとかのほうがいいな。」

「え、あの『幼馴染くん』?なんで?地味じゃない?」

「いやいやちゃんと見たらまあ許容範囲じゃない。しかもやさしいし。彼女めっちゃ大事にしてくれそう。」

「あー。」


途中まではなんとなく聞いていたクラスメイトの会話に、突如出てきた彼の名前に急に鈍器に頭を殴られたような衝撃が走った。

(かのじょ?)

頭の中には今聞いた言葉で一杯だ。


高校生だ。付き合いひとつだってあってもおかしくない。というか周りにはカップルは一杯いる。

でも彼は今まで色恋沙汰の一つ聞いてこなかった。告白の一つさえきいたことない。

だからこそ、今彼女の言葉に衝撃が走る。


(西尾くんがもててる...????)


その言葉に支配された彼女にはその後に続く彼女達の言葉は当然耳に入らない。

「でも、西尾って、むりでしょ。理想絶対高い。あの東雲さんの幼なじみだよ?」

「ちょっと、声大きいって。それに東雲さんは別に婚約者いるし相手にされないでしょ。」

「そりゃそうだけど、あんな美人ずっとみてたら私たちなんて芋みたいなもんでしょ。」

「まあそうだよね。いや、私も本気じゃないよ~。林に比べたらって話で~。」

という会話がなされていたことを。


「唯。唯!ほらうちらの番だよ!」

呆然とする彼女に、明梨は強く声をかける。


「あ、ごめん。今はいる。」

そうだけ言うとコートへと急ぐ。


深く深呼吸をし、心を整える。


パーン。

0-15

(え?彼氏にしたい?そんなの私が一番思ってる!)


バンッ。

0-30。

(ここに今すぐ告白したい人がいるんですけど?)


パン。

0-40。

(『彼女を大切にしそう』めっちゃわかる!!!!)


カンッ。

『東雲さんがワンゲーム先取!』

(でもそれだけの理由で簡単に彼氏にしたいとか思わないでくれないかな?)

テニス部の明梨相手にストレースでワンゲームを先取したことに、周りはざわめいている。

しかし、今の彼女にはそんなこと耳に入らない。


「うーん。なんか唯めっちゃ調子いいじゃん。

 でも、こっからだからね!!」

明梨がなにかぼやいているが、私はそれどころではない。


サーブも思いっきりスピンサーブから始める。

0-15。

(私なんてがずっとずっとまえから彼のこと彼氏にしたいんですけど?)


(いや、でも私がそんなこと言う権利はないのか。)


(だいたい、私と彼女だったら彼女の方がお似合いかもしれない。)


(でも!!思いなら絶対負けないのに!!!!)


(というか単純にあんなおおっぴらに恋バナできるのうらやましいい!!!)

思いっきりふったラケットはすごいスピードのボールへと成り私は見事に明梨相手に勝利をおさめた。


高校一年生ながらに次世代エースと言われる

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婚約者のいるお嬢様幼馴染が俺に片思いしているみたいだけど今日も知らないふりして過ごします @Tokiha-midoriba

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