第一楽章〜2〜
そして、本当に数十分後、全員が揃った。それから、黎が何かを持っていた。おそらくバイオリンが入っているであろうモノトーン調のオシャレなレザーケース。
「それ、バイオリンか?」
「そうだよ」
なんとなく、この子が持つと重く見える。
「持とうか?」
「ううん、大丈夫だよ。これくらい自分で持てる」
大丈夫だよ、と言ったあと、拗ねた子どものような顔をしていた。小さい子と思われることが嫌なのだろう。俺は、そのつもりは無い。ハープは家に置いて、バイオリンを持ってきたのだ。どんなバイオリンか楽しみだ。このケースのなかに億相当のバイオリンがあると思うと持とうか?と言った自分が怖い。
「楽器いくつ持ってんだ?」
「えっとねぇ。ハープ、バイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、グランドピアノ、パイプオルガン、フルート、ピッコロ」
ヤバすぎる。家にパイプオルガンがあるだと?この人の家は城なのか?パイプオルガンがあるのに、グランドピアノがいるのか?俺の頭の中には、大量に疑問符が浮かんでいた。
「もう!なんなのこれ!」
「ん?」
「あれは・・・」
ゾッとするような黒いモヤで覆われた獣がそこにいた。さらに、それに襲われている様子の少年。
「あいつって確か」
「光紀だよな」
小柄で細い金髪の少年が武器を振り回していた。あんな化け物を目の前にしてよく武器とか構えられたな。それを見た黎がケースからモノトーンのバイオリンを取り出し奏でた。
「ん、あれ?」
「なにやったんだ?」
「まぁ、簡単な説明をするとだね・・・こういうことさ」
「超能力?」
「今回はちょっと省いちゃったのだけどね、これ真言って言うの」
そう言うと微笑み、レクイエムと呟きその獣を浄化?した。光紀は突然消えてポカンとしていた。
「ありがとう、助かった」
「うん。キミはクラスメイトの光紀くんだね」
「さっきの視えたんだ」
幽霊みたいなやつか。あれが見えたらなんかあるんだろうか。
「あぁ、実はね。まぁ、詳しくは・・・」
「俺の家で」
光紀は怪訝そうな顔をした。初対面にこう言われたら普通警戒する。と、思いきや
「なんだか危なそうな予感がする。というか胸騒ぎがするからね。お邪魔しようかな」
「おう、歓迎するぜ」
チャラそうなのは見た目だけというか遠目だけ。実際目の前にしたらびっくりするくらいのイケメンだ。しかも表情は至って穏やか。
こうして俺は、四人を引き連れ帰宅した。
「わあ、ここが焔くんのお家?」
「狭くて悪いな・・・」
「ううん、わたしの部屋も楽器がたくさんあって狭くなっちゃってるもん」
同じ部屋にグランドピアノとコントラバスなんて置いているからだと思うのは俺だけだろうか。まず、それだけの楽器が置ける時点で相当広い。
「ねぇ、さっきのバイオリンのやつはなんだ?」
「あれ凄かったな!」
バイオリンを弾いただけで濃紫の獣が消えた。消えたと言うか浄化とのことだ。
「真言って言ってたね。まさかと思うけど・・・あんなのうじゃうじゃいるの?この世に」
「えぇ・・・よくわかるわね」
「光紀くんすごい。お兄ちゃんのサポートが出来そう」
「「お兄ちゃん?」」
あれ?家族はいないって言ってなかったか?いたとしても楽器だと。兄がいるのか?さらに姉までいるという。あくまで兄代わりと姉代わりらしい。そう聞くと少し切ない。
「そういえばわたし、黎ちゃん以外の真言使いを知らないのよね」
「真言使いって魔法使いみたいなやつか?」
「うん、そうだね。詠唱もするからイメージとしては魔法使いだね」
詠唱を省いちゃったけどとか言っていたな。コンツェルトと言われた俺たちはそういう魔法使いとしての適性があるんだろうか。全く自覚がない。
「適性があるかどうかは、あの獣が見えたかどうかが大きいのだよ」
「あれ、コンツェルト?にしか見えねぇってことか?」
「そういうことよ。ちなみにコンツェルトは黎ちゃんの喩え」
ただ適性者と言うのでは面白くない。そのためコンツェルトと言い出したそうだ。詠唱するわけだから歌い手とかでもいい気がするが、あまりカッコよくないんだろうか。
「俺でも使えるのか?」
「言うのはやっ!使えるって言ったら使うの?」
「恋ちゃんの言う通りさ。力を得るということは戦いに巻き込まれることを意味するのだよ?」
一般人にはない異端的な能力を持つ者は、その力を使って人を守らなければならない。強制というわけではないのだが、俺ならそういう理由で使うだろう。しかもそれが戦い?
「ねぇ・・・君たちは何者なの?」
光紀が尋ねた。確かに、不思議な力を使っているところを偶然見た黎はともかく恋は一体。
「わたしは神性真言使いラプソディア。真言使いで唯一浄化することができるのさ」
「真言使いの最高位でこの世に一人しかいない」
たった一人だけに与えられる。ラプソディアに選ばれた者には役割があるというのだ。それがまさかの世界を守れ。世界中に蔓延るあのモヤを除去し、この世の平穏を維持しろ。恐ろしい無茶振りだ。
「黎は世界を背負わされたと」
「されたは少し違うかな。わたしにしか出来ないことだから。わたしの意思でラプソディアになったのさ」
俺と年齢は変わらないのに物凄い重いものを背負っていて、それを自分の意思だからと言って微笑む。強い人だ。
「それで、君のボディガードが恋ちゃんか。恋ちゃんも真言使いなんだ」
「そう。ボディガードもそうだけど、わたしはラプソディアの守護者」
「それがカルテット?」
「カルテットも黎ちゃんが好きに付けた名前よ」
本来の名前があるらしい。しかし、黎はあまり気に入らなかった。本来の守護者の名前もかっこいいのだが、音楽系の用語がよかったとのこと。
「俺もカルテットになればいいんだな」
「い、いいの?」
「喋ったってことはそういうことじゃないの?」
「協力したいな」
俺、犀、光紀の三人は即決した。恋も即決したはずだ。黎が背負うものは持つものがあまりに重い。それを分け合ってもバチは当たらない。
「よし、じゃあ・・・君たちの力を一気に引き上げるね」
「おう。頼む!」
「じゃあ」
黎はハープを取り出す。そして白く華奢な指で爪弾いた。自分の体内から一気に力が湧いてくるのを感じる。しかも熱い。しばらく聴き惚れるように目を瞑っていると演奏が終わった。
「なんかすげぇ熱い」
「俺冷たかった」
「僕はなんか目の前がキラキラしていたよ」
「引き出された時に現れた反応がその人の属性の性質だよ」
熱かった俺は火属性。冷たかったと言った犀は水属性。キラキラしていたという光紀は金属性。ちなみに恋は風。金とは?
「金はまぁ・・・お兄ちゃんが詳しく説明してくれると思う」
「そのお兄ちゃんなんなんだ」
「わたしたちの頭脳さ。もちろんものすっごく強いよ」
この国にあるという騎士団。光聖国騎士団の若き総帥。騎士団どころか国軍も含む国防部の総帥。何万人にも及ぶ騎士を率いる元帥がそのお兄ちゃんの相棒。体術で右に出る者はいないという別名雷光と、その場で高速で回転する頭脳で組み立てられる戦略と真言のスキルを用いて暴れるお兄ちゃん。さらに海や火山さえも凍てつかせる氷の女王という異名を持つお姉ちゃん。どういう組み合わせなんだ。
「今度、みんな紹介しないとね」
「楽しみにしてる」
どんな人なのかすごい気になるな。おそらく、俺たちの指導をしてくれるのは元帥と黎の相棒の二人だろうという。なんか怖いんだが。総帥は忙しいのであまり会えないかもとのこと。このあと、俺たち特に俺にとって驚愕の事実を知ることになる。
────
無事能力者となった焔たち。その一方、焔たちが住むこの国
一人はプラモデルを作成しているブルーグレーの髪を一つに束ねた鮮やかなサファイアのような双眸の青年。もう一人は静かに本を読むゆるやかにウェーブする紫がかった黒のセミロングの赤みがかった夕日のような琥珀色の双眸の青年。
その部屋に少女が入室した。氷のような青みがかった銀髪をポニーテールにしたアイスブルーの双眸の少女だ。そして入室するなり
「黒い雲が出た」
「!」
「・・・」
少女のしっとりとした呟きに、一人は驚き一人は静かにコーヒーを含んだ後溜息を吐いた。
「予想通りだったみたいだぜ」
「外れてほしかったよ」
「それから・・・」
ホッと安堵したような少し困ったような複雑そうな表情で告げる。
「へぇ、これまた急展開ですね」
「こりゃあれか?戦力アップもあり得る」
「そ・の・ま・え・に」
「ん?」
「協会に報告しなきゃいけないんだけど。黒い雲の件」
いつぞやのように溜息を吐くしかない二人。この三人にとって協会は煩わしい存在。三人とも所属していて出来ることなら抜けたい。というかすぐに抜ける気でいる。
「俺もう抜けるわ」
「残念だったな。お前は絶対許してもらえねぇよ」
「あー、なんて迷惑な執着・・・」
敵に対抗する協会の戦力のほとんどはこの三人のものだ。そう簡単には抜けさせてもらえない。
「ただなぁ」
「今度はなんだよ」
「協会が怪しい。俺調べなんだけど」
「聞かせもらえるか」
この三人の頭脳と思われる少年から語られる報告に二人は動揺を禁じえなかった。それと同時に頭痛がした。
「まーじーかー」
「
「ああ、それはありがたい」
「グレー通り越してる気がするんだが・・・」
呆れた様子の精悍な青年が苦笑を浮かべながら呟いた。釣られるようにもう一人の青年も苦笑し頷いた。
「でもまぁ、出逢ったんだろ?」
「・・・うん、なるほど」
三人のもう一人の仲間により明かされた新たな戦力。その写真に琥珀色の双眸の青年が頭を抱えた。
「過度な期待はしないでね」
青年の渇いた微笑に二人は首を傾げた。
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