黒の部屋 17
「そっ、そんなはずは……! 何か、知ってる事はないですか? どんな些細な事でも構いません。知っている事があれば、是非」
「……腹、減ったなぁ。酒飲みてぇな。そういえば、煙草も切らしてたんだっけなぁ」
狭い部屋に四人。明るい部屋に、プシュと缶ビールの音が響く。煙草臭い部屋にはコンビニ弁当の匂いが漂っていた。意外にも部屋は整っている。ゴミ一つ落ちていない。本当に油断していただけだろう。
「いやぁ、助かったぜ。今月仕事行ってなくてよぉ。マジ助かったわ」
大事な事だから二回言ったのか、それとも本音ではないのだろう。
「そういや、オレの名前まだ言ってなかったな。オレは、陸斗。りっくん、って呼んでくれ」
「ほ、ホストみたいな名前ですね」
「あぁ、源氏名だからな」
くわえ煙草ながら、悪戯っぽい笑みを浮かべて優太の問いに答えた。あらかた説明し終わったが、この笑顔。この分なら、隣のこの部屋には一切被害はないらしい。貰った名刺が輝いて見える。
ただ、この人のおかげで安心出来る部屋なのに、違和感がある。どこかが違う。
「「「あっ」」」
キョロキョロしていた三人の視線が、真後ろのクローゼットに集中していた。死角となっていても不思議ではないはず。なのに、まさか同時に三人が視線を交わらせるなんて。
位置としては、ユニットバスの側面になるのだろうか。
「ン? クローゼットが、そんなに珍しいのか?」
「えっ? いえ……」
呟きながら、優太はふと疑問に感じた。クローゼットがある部屋だとは思っていなかったのだ。だがたしかに彼は晶の声で聞いた。『壁の中とクローゼットに、お札が隠されてある』と。およそ一ヶ月前に美香を監視していた時には、この場所には壁しかなかったはずだが。
「ところで、マジでその親父さんが戻らなかったらヤバくないか? 確実に、この隣の部屋にいるんだよな?」
今まで締まらない顔をしていたが、急に真面目な顔をして立ちあがり、ドンドンと壁を揺らした。
「あのー、親父さん、聞いてます? 聞こえてたら返事してほしいんスけど」
返事はない。やはり、何かアクシデントがあったのかと思ったのか、晶が
なんだ、やはりいるのではないか。重く固まった息が、ようやく解放された。
「……なんで、会いに行かねぇの?」
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