黒の部屋 16

 どこかが違う。それが一体どこなのかは、部屋の前に着いてようやく分かった。電気が点いていないのだ。監視カメラの映像では電気は点いているが、実際に部屋の前まで来て見てみると点いていない。


 優太たちは、それぞれ顔を見合わせた。生唾を飲み込み、再び画面を見つめる。


 いる。彼らは、スマホの画面でも確実に玄関の前にいる。



「おい、どういう事なんだ?」



 覗き穴。正式名称はドアスコープというらしい。エムコープというスーパーが、昔近所にあったが現存するのか気になるところだ。ええと、何の話をしていたんだっけ。気が動転している気がする。


 エムコープ……じゃない。ドアスコープからは、一切光が漏れていない。お隣さんとか見てみると、明らかに爛々と光が漏れているのに。三人は揃いも揃って幻覚でも見ているのだろうか。眼前からは死に等しい闇しか見えない。



「――!」



 ドアノブに手を伸ばす晶だが、ピタリと止まる。『こちらから、連絡を入れてはいけない』……それを思い出したのか、小さく息をつき、踵を返した。



「明日、もう一度来てみましょう」



 そう言った途端、偶然にもお隣さんの部屋が開いて彼らは固まってしまう。


 ど、どどどど、どうしよう。絶対に怪しい。怪しすぎる。こんな夜更けに、部屋の目の前で三人が間抜けな格好をして立っているのだから。普通の人なら、おまわりさんコイツですと騒ぎたてられても文句は言えない。



「え、えぇと、今日もいい天気だね、晶くん」



 我ながら演技の才能は無い。



「は、はは。そ、そうだね、優太くん」



 優太よりも酷い演技をする日本人形が、目の前にいた。



「なンだよ。また肝試しかよ。いい加減にしろよな、ったく。毎年毎年」



 隣には、二十代前半と思われる青年が住んでいたようだ。日付が変わったばっかりで油断していたのだろうか。半ズボンとランニング姿の髪を逆立てた金髪ボーイは、服の中に素手を入れてボリボリと胸を掻いていた。



「肝試し……? ここには、私の父が住んでいるはずですけど」


「はぁ? 夢でも見てるのか? オレは、ずっとここに住んでるが生活音なんて微塵も聞こえなかったぞ」


「えっ?」



 防音設備でもあるのかもしれない。仮に防音設備が完備だったとしても、電気の件は説明がつかない。


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