黒の部屋 15

 それからというもの、言われるまでもなく張り込みする日々が始まった。


 二○一号室の窓が見える防犯カメラを、万能な足長おじさん(晶)がハッキングしている。昼は、ちゃんと窓が開いているか。夜は、ちゃんと電気がついているかをスマホで確認。


 それは毎日続いた。二十四時間体制ではないが、三人のスマホに防犯カメラの映像は共有されている。


 朝と夜の一日に二回見るよう、優太は義務付けた。二人ももちろん異論はない。無料でやってくれている美香の立場。父の背を追い続ける晶。晶に至っては、本当は父の浄化について隣で見ていたいだろう。父ならどうやって浄化するのかを。


 定期的に連絡を取り合い、三日に一度は三人で例のファミレスにて夜食を共にする。


 父の方には、特に異常はなかったが……美香が妙な事を言い出した。



「最近、嫌な夢を見るの」


「「嫌な夢?」」



 思わず異口同音で首を捻ってしまう。食事を終えた後で、ゆったりしている時だった。巡回している店員に空いた食器を渡しながら耳を傾ける。



「うん。人形の両手両足を縛って、顔をナイフで何度も何度も、何度も何度も何度も何度も刺していくの。血がドパドパ出るのかな、って夢の中では思ってるんだけど、血の代わりに綿が出ていくんだよ」



 優太と晶の周りにだけドライアイスが流れているのが手に取るように分かった瞬間。二人は同じポーズで美香を見つめていた。彼らの脳裏に浮かんだのはおそらく、あの映像だろう。



「どうしたの、そんなにシンクロして」


「えっ、い、いえ。ストレスが溜まってるんですね。今日は美香の部屋に行きますから、思う存分私に愚痴をぶちまけてください」



 現在部屋を預けていて住む所がない美香と、九州から飛び出してきた晶。金銭面では晶持ちで、二人は今ホテル暮らしだ。出世払いという事で、自堕落な生活をしている晶に養ってもらっているらしい。ただ、やっぱり美香は仕事に行きたいらしく朝早くに出ていくようだが。



「そ、そうだぞ。晶にならいくらでもぶちまけていいからな。なんたって俺たち、親友だし」


「ご逝去いただけないのでしたら討ち取らせていただきますが、よろしいでしょうか」


「冗談ですはい。ごめんなさい。ていうか絶対俺の事嫌いだろお前。せめて目元だけでも笑えよ!」



 美香の夢以外は順調だった。二週間が経つ。電気が消え、ついての繰り返しの毎日で映像的には何も面白みがないが、とりあえず一安心といったところか。


 ついに一ヶ月が経った。晶の父にとっては楽勝だったのだろうか。特に、何の異常も見られぬまま約束の日時になっている。


 全員の顔が明るくなった。ド○えもんの歌詞2番のように「ソレ! 突撃」とアパートへと向かったが、様子がおかしい。

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