黒の部屋 14
「ほ、本当にいいんですか?」
と言ったのは当事者ではなく優太。美香はキョトンとみんなの顔に視線を向けている。
これでもう大丈夫だ。助かったんだ。
安堵の色を隠せない。ただ、一つだけ不安な点が……。
「あの、浄化の料金は……」
「いや、金など結構。お布施という形で、我々には日々入ってきている。ただ不思議な事に、いつも同じ筆跡の人からだが……。な、晶」
びくっ、と晶の肩が震えた。横目で、吹けもしない口笛を吹いている。滝のような汗をかいているのは気のせいだろうか。
「あの、失礼ですが金額的には……?」
「そうだな、多い時でポストに入りきれない時があったくらいか。手紙だけでありがたいものを」
なるほど。そういう事か、と優太はすぐにピンときた。
晶の家は、優太が幼い頃はものすごく貧しかった。それが何故か、今ではお金が集まるようになっていた。
親父さんの人柄的に、たしかに金銭の要求はしないだろう。だけどそれでは生活は貧困を極めるばかりだ。だからか。だから晶は、匿名でポストに諭吉さんを入れ続けたのだろう。足長おじさんのように。ていうかお布施って高くても一万円くらいだ。ポストに入りきれないくらいの……大根だったのなら話は分かるが。
優太の推測が間違っていなければ、
「晶、ちょっとここに、自分の名前書いてみてくれないか?」
「は? ご逝去ください」
確定。やはり手紙なども晶が書いていたらしい。
素直じゃない。さすがA型だ。素直じゃなさすぎて損している。属性で言えばツンデレだと思われる。
「こら、晶! お前友達に向ってなんという言葉を……」
「だったらこう言い変えます。死ね」
悪化してしまった。
「悪いね、優太くん。晶には言い聞かせておくから。ただその代わり、大船に乗ったつもりでいてくれ。必ず、浄化してみせるよ」
親父さんの力強い言葉に、優太は心の底から感謝した。
親父さんの言いつけはたった一つ。連絡があるまでは、絶対に連絡しない事。つまり、優太たちから親父さんには絶対に連絡を入れてはいけないらしい。それは実の娘である晶も例外ではない。何かあったら母に伝えるよう、言われている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます