黒の部屋 13

「あぁ。他にも何か言ってたんだけど、長くて聞き取れなかった」



 晶はスマホを片手に検索していたようだが、何も出てこなかったのか首を傾げている。



「分からないですね。とにかく、これは危険ですので、私が預かり――」



 彼女が手に取った瞬間だった。また動画が流れ出したらしい。自動的に一時停止になっていたのか、優太が見ていた音声とはまた別の音が流れてくる。視線を外していた間止まっていたようだ。これが日常の動画だったら、なんと素晴らしい機能なのかと褒めていたのだが。



「何、この絵……」


「絵?」



 つい気になって、優太は晶の隣から覗きこんでしまった。


 そこには、幼稚園児が描くような絵が描かれてあった。ただ、この絵を描いた張本人は地獄でも探検してきたらしい。


 画用紙には、人形がいた。その人形の腹からは電池ケースが飛び出しており、その中に電池は入れられてなかった。見事な事に、五体すべてが、画用紙をつなげて描かれてある。頭、両腕、両足、身体で計六枚だ。


 両手両足を鎖に繋がれているその人形は、顔は引き裂かれ、綿が散乱していた。……違う。いや人形としては同じ人形なのかもしれないが、先ほど動画で見た人形とは違うようだ。流れていた動画には、ちゃんと顔がついていた。



『えぢあにしにろちほうこぶ』


「うっ……」



 思わず、だろうか。顔を背けた晶に向って、優太は言った。



「これだ、この言葉だ! まったく同じだ……。俺が聞いたのと、まったく同じ!」



 その言葉で起きてしまったのか、美香が寝言を言い始める。



「わ、悪かった。落ち着く。とにかく、見てなかった事にしよう。親父さんが来るまで、何も撮れてなかった事にしよう。だから、そんな目で俺を見るな」



      5



 晶の親父さんが到着するまで、それほど時間はかからなかった。そういえばこうやって見るのも、ものすごく久しぶりのような気がする。最後に見たのは確か、テレビの中だったか。


 見た目は、四十代くらいのオジサンだ。このファミレスによく似合う。出演していたのももう遠い昔の事なので、誰も親父さんの事など覚えていないだろう。



「これが、問題の動画か」



 ふむ、と一言。



「晶が拒否するのも頷けるな。いいだろう、美香ちゃんの代わりに俺があと三十日間住もう」


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