黒の部屋 12

『えぢあにしにろちほうこぶ』



 ……!?


 前触れなく、低く、それでいながらくぐもった男の子の声が聞こえてくる。人形と遊ぶのに夢中で、人形に話しかけているようだった。えぢ……? な、なんなんだ、その言葉。


 途切れ途切れのそれは、日本語ではなかった。



『えちせだねだん』



 こっちの人形も、よく分からない言葉で喋りはじめた。思考回路がまとまらない。わかったぞ。これはきっと喋る人形に違いない。



『うおぼさ』



 その人形が、いきなり優太を向く。首をぎょりっと回転させて。


 優太は声なき声を上げてソファの上で飛び跳ねた。お尻が浮くのは絶叫マシンだけで十分な気がする。いや待て。そうか、このソファは絶叫マシンなのか。そうか、そうなのか。


 子供の身の毛もよだつ声と同様に、この人形がやる事は恐ろしい。なにもカメラ目線じゃなくてもいいはずなのに。どんだけ目立ちたがりなんだ。


 シーンが変わったところで、何かの気配に気が付き、優太は視線を上げる。



「どうして……見てるんですか」



 言葉に詰まった。


 優太も、見たくて見たわけじゃない。『勝手についていたんだ』……と反論しようにも出来ない。あまりの威圧に、彼は言葉が出てこないのだ。



「この動画は、この世の者が撮ったものではありません。あの部屋の本当の主。あまりの力にこの動画は怨念が具現化されたのでしょう。……カメラなんて、壊してしまえばよかった」


「お……俺は、どうなるんだ? 俺だって、好きで見たわけじゃない。勝手に再生されてたんだ」


「こんなに強い霊とは、産まれて初めて対峙します。私にも、一体何が起こるか見当もつきませんよ」



 吐き捨てられた。どうすればいい。どうすれば。


 ミイラ取りがミイラになってしまったらしい。死の宣告を受けたような気分だ。


 優太の耳には、先ほどから声がこびり付いている。人形の声だ。



「うおぼさ、って、聞いた事あるか?」


「はい?」



 こいつ突然何言い出すんだ? と言わんばかりに顔をしかめて、鋭いつり眉を更に吊り上げる。



「人形が出てきたんだけど、その人形が喋ってたんだ。うおぼさ、って言ってた」


「う、お、ぼ、さ……?」



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