黒の部屋 11
「いいから寝ろ。時間は限られてるんだ」
そう、二時間。たったの二時間しか眠れない。だって四千円だし。
二人の寝息が聞こえてくるのも、時間の問題だった。優太もソファに座ったはいいものの、立ち上がれないでいる。
眠い。ただ、ひたすらに瞼が落ちていく。このままソファに埋もれてしまうほどに。
ただ、さっきのビデオが気になって仕方がなかった。絶対に見ないで、と言われて素直に見ないほど、彼は聞きわけのいい者ではない。『前振りだろ?』としか思えない言葉。
――このビデオ、絶対に見ちゃダメですよ。
しかし怖いもの見たさという感情よりも、恐怖が勝り、手に持っていたカメラの液晶を開く事も無くテーブルへと置いた。
そうだ、晶の父が来たら一緒に見たらいい。そう思って、疲れの溜まっていた優太もそのソファで目を閉じるのだった。
4
何かの音が聞こえる。遠い昔、どこかで聞いた事のある安らかな音。
心地よいその音色を確かめるべく、優太は目を開いた。しかしその途端、彼の血液は液体窒素に早変わりした。
砂嵐だった。音は聞こえない。
録画出来ているだろうと思われた動画は、撮れていなかった。優太が先日ファミレスで監視していた時は、確かに録画出来ていた。二人そろって、美香の歪んだ顔など見るはずがない。
考え事をしていると突然、映像が流れだした。アパートではない。どうやら一軒家の座敷らしい。そこで、小さな男の子が人形と一緒に遊んでいた。
こんな動画を撮った覚えはない。というか、この動画は一体いつのだろう。優太が生まれる前の動画かもしれない。昭和の匂いが漂っている。ノイズが走り、たまに分割される。
止めるべきだ。今すぐ、この動画を止めるべきだ。
頭では分かっているものの、身体がそれを拒むかのように動いてくれない。どう動かせばいいのか分からない。小刻みに震えるだけで、処理が追い付かない。
なんとか停止ボタンを押した。しかし続いている。
「あ、あき……晶! ど、どうしたらいいんだ、これ! 勝手についたぞ!」
必死にビブラートを出して歌ってみたが、一切起きる気配はない。バッテリーを抜いたが、無駄だった。
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