黒の部屋 10
晶のこんな弱気な態度は初めてだった。今までどんな心霊スポットに連れて行っても顔色一つ変えずに突き進んでいっていたお守り役の彼女だっただけに、この反応だけで部屋の恐ろしさを再確認してしまう。
曇天は変わらず、昼を迎えた。特に話題もなくなり、晶が旅の疲れのせいか、うとうととし始めた。
聞いた話によると、彼女は買ったばかりのバイクを飛ばしてきたらしい。一度も休憩する事なく九州から東京まで来たのだ。疲れていて当然といえば当然の話。
「はふ」
小さなあくびをしたかと思ったら、小さく何かを言い始めた。
「このビデオ、絶対に見ちゃダメですよ。ちょっとだけ、休みますね」
「場所、移るか?」
都会で、さらに休日で昼間のファミレス。そろそろ店員の視線が痛くなってきた。
眠くて一歩も歩けないという晶を、優太は背負って歩き出す。
『やっばーい、何あの兄妹。めっちゃ癒されるー』『ああいうお兄ちゃんっていいよねー。てか、あの妹さんかわいくない? お人形さんみたーい』と周囲の少女たちが優太を微笑ましい笑顔で見つめている。
いや違うから。兄妹じゃないし。ていうかお前らよりも年上なんだぞ、こっちは。
「お兄ちゃん、喉乾いた。ジュース買って、ジュース」
「だぁれが『お兄ちゃん』だ! だいたいお前、さっきファミレスで飲んだだろうが! 地味に他人と同調してんじゃねぇ!」
シャツの裾を引っ張る、他称妹二号。確かに優太は女性陣に比べると雰囲気的に少し年上に見られるかもしれない。
「ほら、着いたぞ。しっかり寝ろ。四千円分寝ろ」
この世には、金を支払えば部屋を借りれるシステムがある。それはもちろん、そう、そういう大人の、むふふな空間だ。ただしかし、ホテルとなるといかがわしいイメージがあるではないか。
現代では名を変え姿を変え、それは点在している。その名もレンタルルーム。客の利用目的は、ほとんど変わらない。
……というのはそういう関係を持った者同士のみで通用するのだ。しかし生憎、優太の眼前にいるこの二人は友達。美香は別にいいとして、晶は外見だけしか良くないイメージがある。中身は、ちょっと。具体的に言えば金の魔力に惹きつけられつつある。というかもう手遅れかもしれない。
女性の本能として、金銭に関しては拭うに拭えない歴史があるものだ。古の呪われし血族の本能が女性たちを夜のハンターへと豹変させる。下心しかない人は妖怪手のひら返しに憑かれてると思ってもらって差し支えない。
「あ、あはは、ちょっと、私も寝るね。やっぱり、寝れなかったみたい」
だろうな、と優太は思った。
晶の真っ黒に光り輝いているミディアムヘアに、己の茶髪を扇状に溶け込ませる美香。何故か顔を赤らめ、隣の晶の寝顔を見つめていた。
「こうやって並んで寝るの、初めて……」
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