黒の部屋 6
その日、美香は疲れのためか早めに就寝していた。しばらくずーっと確認していたが、なんにも異常はない。はたして本当に事故物件なのか、怪しくなってきた。
……と思っていたその時。時刻は深夜三時五十分くらいだろうか。急に布団の立ち上がった美香。トイレかな、とも思ったが、様子が明らかに変だ。電気をつけず、定点カメラの前に立ち尽くし、窓の外を見つめながら動かなくなっている。
位置がおかしい。あの距離からだと、空の様子くらいしか見れないはずだが。
そのまま十五分ほどフラフラと立っている。美香はこんな奴ったのか。否。何かが違う。見ているこっちの気が変になりそうだ。
そんな時、突然ピコピコと鳴り響く。晶からの連絡だ。心臓を激しくダンスさせながらスマホをお手玉のように躍動させ、ラインへと画面を切り替える。
『どうですか? 異常はありませんか?』
『いや、それがもうすでに異常が……』
「異常? そうですか」
「うぉッ!? お前、どこから現れた!?」
「入口から」
ピンポーンと店内が鳴るファミレス。
到着が早すぎる。中学からの親友の危機とあれば、ここまで急げる人間だったなんて。優太はちょっと見直しながら晶へと定点カメラの映像を見せた。
「――? どこに異常が……?」
「あれ……? 普通に寝てる?」
確かに、先ほどまで目を見開き窓の外を覗いていた彼女だったが、今ではそれが幻だったかのように眠っている。
「……やっぱり不気味ですね、この部屋」
「どこらへんで分かるんだ?」
「二か所にお札が隠されてあります。壁の中とクローゼットから、それらしき気を感じますが……気付いてますか?」
素直に首を横に振る優太。
「そうですか。では朝一番に、美香の部屋へ行きましょう。彼女が心配です」
さっきのが見間違いでなければ、ちゃんと録画されているはずだ。録画ボタンを押したのを優太は明確に覚えている。
スマホの画面を見ながら、優太は晶に積もる話をしていた。
次第に話に熱が入り、舌を振るっていた時、ふと画面を見やる。すると、例の美香が今度は定点カメラを食い入る様に見つめているではないか。
これにはさすがに晶も小さな悲鳴を上げた。彼女が悲鳴を上げるのは珍しい。なぜなら、明らかに顔が変わっていたからだ。『メイクが落ちちゃった!』とかそういう問題ではなく、カメラ越しにぐにゃりと顔が曲がっている。編集された心霊動画のように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます