黒の部屋 3
「……と、
「この場所で、月に一万円未満という事で入居者が殺到しております。が、今まで誰も二週間以上ここで生活した前例がないのです」
「二週間……」
カン、カン、と薄い鉄板の階段を上がり、ガチャと鍵を外して部屋を開けてくれた。なかなかに広い。
「あれ、エアコン入れてたんですね」
あまりの涼しさに、思わず優太が声を出す。
「いえ。特になにも」
「えっ……」
真夏。外は炎天下で、数時間で日焼けする自信がある。にもかかわらず、中は冷房がついていたように思えるほどの寒さだ。
「佐藤様のご友人ですか?」
「はい、そうですけど……」
「でしたら、どうか止めていただきたい。絶対に、お勧め出来ません。この物件をお貸しする事が私の仕事ですが、ここだけは、絶対」
美香に聞こえないよう、ひそひそと話す仕草に、優太は少し疑問に思った。
「どうしてそこまで。二階に人は、普通に住んでるんですよね? たった今、挨拶しましたよね」
「はい。実は、怪奇現象が起こるのは、この部屋だけなのです。隣の物件は、月に六万五千円です。人が亡くなる前はもっといい値段だったのですが」
うお、人が死んでるのか。これはますますヤバい気がする。
「な、なぁ、美香、やめないか、この物件。明らかにおかしいぞ」
「平気だってば。なんなら霊能者の親友いるから、お祓いとかもお願いするよ」
「ああ、あいつか」
優太とも親友の霊能者。地元では有名な同級生で、今まで数多の霊を浄化してきたという百戦錬磨の女性プロだ。たしかに、その友人に頼めば何とかなりそうな気はする。東京と九州の往復チケットを渡せば、来てくれるだろう。
「ここの物件の値段は、ずーっと同じなんですよね? 怪奇現象が起きなくなったとしても」
「はい。佐藤様の場合でしたら、上がる事はありません。一ヶ月以上住んだ場合、もう事故物件としての説明義務は無くなりますので、次に住む人からは隣と同じく六万五千円ですが」
もし仮に、ここの霊を浄化出来て、同じ値段で住み続けられるのなら、それは確かにお得すぎる。
「そしたら、この物件をお願いします」
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