重いは気づき、想いは気づかず

 背中越しに伝わる体温と柔い感触、仄かに鼻腔を刺激するのは薫の香り

「重い…これで階段下るのか?」

 体育の成績が2の俺にとっては数十㎏たりとも、かなりの苦行だ。

「こら!女の子に重いって言っちゃダメ!」

「20㎏のお米ですら重いんだよ!俺にとっちゃ」

「そ、そんな事より早く薫ちゃん運ぶよ!」

「運ぶのは俺だけどな」


「着いた」

 やっと薫のクラスである二年一組へと着いた。

「え?このまま入るの?」

「もちろん!!」

 何でそんなに笑顔なんだよ…。


「失礼しまーす」

 何だ?俺が入った途端騒がしかった教室は水を打ったようになった。それもそのはず、背中には爆睡する薫の姿が。

「ほらー、起きろー教室着いたよぉ」

 自分の体を揺すりながら、背中の薫を起こそうと試みる。

「うむぅ。むにゃぁ」

 目を擦りながら目覚めた。

「ほら薫、お前の教室だ」

 そっと床に立たせると、薫はやっと理解したのか次第に頬を赤らめだした。

「ぁ、ありがと」

「大丈夫だよ軽かったし」

 少し鴫谷の目が痛かった。

「皆聞いて!!この人の噂は嘘、全部私の戯言」

 皆が一斉にこちらに痛い視線を送る。

「最初から私は彼女ではなかった!」

 結構声を張り上げて宣言した。


「なんだそう言う事だったんだ」

「安心したよー」

「薫ちゃん可愛いから悪い男に騙されてるんじゃないかと…」

 クラスの女子たちは安堵の声を漏らした。

「誤解が解けて良かった」

 そう言い残し俺たちはその場を去った。

「あの子、悪い子じゃないから許してあげてね」

「うん、わかった」

「ただ、不器用なだけだから薫ちゃん」

 鴫谷は少し憂わしげな表情を見せた。

「大丈夫知っている」


「なんで気づかないの?私の気持ち…」

 鴫谷の声は三井に届かなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る