再開 feat.ジュン

第3話5年前の俺の嘘

5年前。


「大濠さんもゲーム招待受けてよ。」


食品会社勤務1年目。

俺の営業担当の店のガールズバーの店長にそう言われた。


「ゲーム?ですか?」

ガールズバーの店長、須佐広樹さん。


ゲーム内のアカウント名はヒロさん。彼は店に行くと確かに何時もスマホゲームにハマりまくっている人だった。


内勤希望だったのだが営業に配属されて慣れないキツい日々の中で須佐さんは気作な人で1番、話しやすい店長さんだった。


「良いですよ。どんなゲームですか?」

ちょっと安易にOKしたゲームはなかなか時間を使うタイプの流行りのやつだった。

その場でチュートリアルをさせられて。なるほど所謂、協力系アプリでチームバトルとかあるやつか。勿論、チームにも強制参加みたい。

これも営業や。半ばヤケクソ。


「大濠君、年齢をそうだな?19歳とかに設定したら?勉強で忙しいとか言えば無理しなくて済むし。」

須佐さんの意見に賛成。


「確かにネットゲームはそれが出来ますね。」

年齢、性別も顔が見えない世界ならではの適当感。

俺は何も気にせず年齢19歳男性で登録。


しかしそのゲーム。想像以上にハマってしまった・・・。

ゲームだけでなくチーム間のチャットでの雑談も楽しいし。後、個人でもメール出来るシステム。これが特に気に入った。


面白い人が多くて良いストレス解消になった。


中でもアキラさんとの出会い。


アキラさんは大学生で21歳。俺より2つ下だけど。俺はゲーム内ではまだ19歳なので現役大学生のフリをした。


話が合う!趣味が合う!


何と言ったら良いのか。このアキラさんと言う人は1を言えば10を知ると言うタイプの人。俺は頭の回転早い人、好き。

年下なのに愚痴も受け止めてくれるし良いアイデアくれるし。

ゲームよりもゲーム内で彼とのメールのやり取りの時間に割くことがだんだんと増えた。


須佐さんには本当に感謝だ。この友と会えて本当に毎日楽しい。


俺の嘘。その1、年齢詐称。


これは誤魔化せる範囲だっただろう。



問題はその2。


アキラさんと直接連絡取る仲になる前から彼がゲイだと知っていた。


何故なら彼の元彼から嫌がらせのゲーム内メールが来ていたから・・・。

多分、元彼は携帯チェックするタイプだったんだろう。ゲーム内までチェックしているとはなかなか粘着質だ。


初っ端からアキラはゲイです。と言うメール。

衝撃を受けたが・・・無視した。


その後もゲームを辞めさせろとか?


チームの悪口とか?


終いにはお前達のせいでフラれたとか書いてあった。

いやいや。お前のその性格だろ?と思いつつも無視!

兎に角、関わったら巻き込まれそうだから無視!オール無視!

争い事は苦手です・・・。

そしたらそのうち元彼は退会していた。


そう。アキラさんがゲイだと知っていて俺は彼とリアルのメール交換をして彼と会う約束をした。


俺もお仲間だと思う。多分の範囲だけれども。

今迄、誰とも付き合った事は無い。

何故なら身長が小さすぎるし童顔。


俺が好むタイプの人から好かれない。


それに、最近は男が好きなのかも解らなくなって来ていた。

でも、女性にもときめかない。


そもそも人間嫌いなのか?何て考えたくなる。

本当の恋はこの年で初めて?憧れと恋は違うとしたら本当に初恋だ。


さて、そんな俺が文章のやり取りと電話だけで好きになったアキラさんと会う日が来た。


待ち合わせは駅近くのコンビニ。


お盆で帰省してきたアキラさんと会う!!

実は俺は都内マンションに住んでるんだけど。設定は関西の大学生だから。ここは嘘・・・。

いや、大学の夏休みだ。その設定は忘れない様にしなければ。


写メ交換してなかったな。解るかな。

気持ち悪い見た目じゃないと思うけど期待はして無い。


『着いたよ。コンビニの前に居る。』

そう連絡が来てコンビニの方に目をやった。

コンビニ前には男性2人、女性1人が居た。

どっちの男性だ?チャラそうなのと真面目そうなの。顔は下向いてて解らない!!


俺がスマホ片手に近寄り『俺も着きました。目の前に居ます。』

そのメールを受け取った人物が顔を上げた・・。


俺はその瞬間にその笑顔に恋をした。


「ジュン君?」

「アキラさん?」

カッコイイ・・・。真面目そうな方で良かった。

黒髪で整った優しそうな顔立ち。身長は俺が軽く見上げるくらいで180センチは無さそうだ。

羨ましいくらいの見た目だった。

こりゃ元彼もなかなか諦めきれなかった訳だな。


「初めまして。アキラです。嬉しいなあ!やっと会えた!」

そう言われてキュンとした。


俺が19歳と言っていたのでカフェで話そうと言う事になった。


もう少し初対面で抵抗あるかと思ったけれど話が弾む。

ゲームの話や学校の話とか。



でも、彼はゲイだとは打ち明けてはくれなかった。

普通は・・・言わないか。


だけど。口説く素振りも無くて。俺は好みじゃなかったのかな・・・。そりゃそうだよね。


「また、会おうね!てか、電話するしメールもする!」

別れ際にそう言われて俺も!!と約束した。

「取り敢えず、会えたらまた近いうちに!」

必死感が出ない様に気をつけて彼を見送る。そして帰路へ向かう時だった。


ヒロさんこと須佐さんから電話がかかってきた。

「大濠君。ちょっと店に来て。」

苛立った声。俺、何かやらかしたかな?発注ミス?


「今日からお盆休みなんですが・・。」

と少し逆らったが益々声が不機嫌になったので諦めて須佐さんの店に向かう事にした。


何のミスした?

折角休みなのにこう言う所、ブラック企業だ!

営業はお得意様に弱い。


俺の過ち。

あの日、ヒロさんの店に行かなければ良かった?

いや、もっと前だ。


俺の失敗・・・。


自らの手で初めて恋した相手を告白もせずに俺は手放した。


いや、アキラさんを相当傷付けただろう。


友達でも良かったんだ。最高の親友で良かったんだ。


言い訳するならヒロさんが恐かった。

いや、最低な言い訳だ。嘘ばかりついてた俺。


反省しかない5年前の俺。


未だにこうやって時々思い出して辛くなる。


そして5年後。営業成績の悪い俺に転勤と部署移動の人事が降りた。

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