第2話夕方に
スケジュール作って、報告書メールして。店長のやる事はかなり多い。
普通の店舗には社員が居るのだがこう言う24時間では無い店舗には居ない事が多くアルバイトのマネージャーと役割分担しながら業務していく。
ジュン・・・。5年ぶりだけど可愛いかったなあ。相変わらず童顔。
ジュンは2つ年下。あの会った日には未成年だった。酒でも一緒に飲めてたらなあ。
何てもう関係無いのに。
もう一度、友達に戻れないかな。頑張れば行ける?
落ち着け俺。仕事だ仕事!!
そう、言い聞かせて本日もバタバタとした1日が終わった。
夕方、バイト上がりの主婦マネージャーとマネージャールームで日常会話をしていると店から声がかかった。
「てーんちょー。」
このちょっとホワホワした声は大学生でマネージャーをしている春坂さんだ。
「どうしたの?」
呼ばれて店へ出ると春坂さんが話す前に見付けてしまった。
フードコートにジュンが居た。
「隣の店長さんが用事だそうでーす。」
「ありがとう。」
彼女には軽くお礼を言ってスイングドアに手をかけた。
店から出てフードコートの席に鞄を置いて立っているジュンの元へ向かった。
「ごめん。まだ仕事?」
ジュンは自然にそう聞いてきた。
「いや、もう終わったけど。」
・・・。で?え?誘われてるの?
「じゃ。頼みがあるから一緒に帰ろう。荷物取って来てよ。」
ジュンはあくまで昔と変わらない口調で。
勘違いしそうになる。
「解った。待ってて。」
何も無かった事にされてる感じが酷く辛く感じた。
でも、一緒に居たい。その矛盾。
マネージャールームに戻り主婦マネージャーに挨拶して帰ることにした。
「お疲れ様でしたー!」
「店長、お疲れ様でーす。」
アルバイトの子達に声をかけられながらフードコートへ戻った。
「帰ろうか。」
「悪いね。こんな事、アキラさんにしか聞けないと言うかね・・・。」
アキラさん・・。前と同じ呼び方。
やっぱり俺を覚えていたんだ。
「ほら、行こうよ。」
少し濁した感じでジュンはフードコートを出る様に俺を促した。
「で?何?」
聞き方ちょっと冷たかったかな。
フードコートを出た瞬間にジュンの顔は恥ずかしそうな顔で俺の顔を見た。
ぐっ・・・。何だよその顔。
「裏道で朝、迷ったんだよ。帰りもモールの外に出れる気がしない。」
「え?裏道って?あー!従業員通路ね。ぷッ・・・。」
思わず吹いてしまった。
「笑うな。」
そう言いつつジュンも笑う。
こう言うブルーローズモールみたいな商業施設は従業員は店内を通って出入りが出来ない。
従業員出入口と言うのが1階にある。
所謂バックヤード。在庫商品が置いてあったりカートがあったり代車がゴロゴロ置いてあるスペースは店舗内と違って薄暗く初心者は迷いやすい。
順路なんて全く書いてないし。階段も扉開けないと無いんだよね。
「俺、朝は食品売り場に出たんだ。」
「それまだ1階だよ。」
「うん。知ってる。それからエスカレーターで3階に上がって来たし。」
「モールのお偉いさんにエスカレーター使ってるの見付かったら煩いぞ?」
そんな会話をしながら従業員通路へ入った。
俺、自然に会話出来ているな。
ジュンが自然だから。何も無かったかの様に。
嬉しい様な嬉しくない様な。
「やっぱり暗いし。此処、何処の売り場あたり?」
薄暗い通路でも解るくらい不機嫌そうな顔。
可愛い癖にプライド高いんだよねぇ。
「ほら。あのスイングドア見て。電気屋ね。」
「あー。なるほど・・。」
少し歩くと一気に1階に降りる階段があるんだけど。
「ここね。D階段!」
「扉に書いてあるね。ここ?」
大きな扉はバックヤードの各所にあってその扉にはA階段からG階段?だっけ?そのくらいある。
「扉開けてみて。」
ジュンを促すと彼は扉を開けた。
「おー。何か階段だけだ。また不思議な空間。」
「だろ?フードコートならこの階段が1番近いよ。」
でも、今日はもう少し一緒に居たい。
「ジュン。この階段降りずに少し着いてきて。他の場所も案内するから。」
ジュンは扉に手をかけたまま俺の顔を見た。
「んー?まあ、良いけど?」
「じゃ、探検ね。」
探検って子供かよ?と笑いながらジュンは着いてきた。
本当に探検みたいなんだけどね。
沢山の代車を避けて進む。
「此処が従業員トイレ。」
「店内のトイレ使えないの?」
なるべくねー。
「これ、ダンボールシューター。投げ込めば良いよ。」
「へー!ごみ捨て便利だな。」
そうそう。
「そして!此処が社員食堂だ。」
此処に案内したかった。
「広いな!知らなかったー。」
ジュンは嬉しそうに食堂内に入って行った。
モールならでは。フードコートに社員食堂、休憩中のご飯には困らない。
普通の店舗の時は自分の店のハンバーガーばかり食べてて少し体重が増えてた・・。
「食堂は16時閉店なんだけど。席は自由に使えるから食品売り場で買った弁当とかも此処で食べれるし。」
社食は客が居ないから寛げる。
「あっ。喫煙所やん!」
社食には勿論、喫煙所も設置してある。
「ジュン、タバコ吸う?」
さも当然と言った顔で彼は頷いた。
それはお揃いで嬉しい。
「俺も吸うんだよね。寄って行こうか?」
「仕事の後は一服したくなるんよね。」
ジュンは早速、喫煙所横の自販機でコーヒーを買い俺も同じくコーヒーを購入した。
「相変わらずちょっとだけ訛ってるね?」
ジュンの大学は関西だったからか当時は標準語と関西弁の中間みたいな訛りで笑えた。
「今日からは、関西、九州、標準語のトリリンガルになるで?。九州弁も覚えよ。まあ?多分、全部混ざるけどね。」
ジュンは自慢げにクスクス笑いながらタバコに火をつけた。
「まあ、俺も九州と標準語だな。大学からこっちに居るから。」
俺は九州の大学に行っていた。
ジュンと会ったのは夏休みに実家に帰省した時だった。
お互いの実家は車で1時間30分程度の距離でそこも直ぐに仲良くなれた理由の1つだった。
ジュンは気が緩むと関西弁になる。
何か・・・嬉しい。
たわいも無い会話。ただ5年前の話はお互いの口からは出る事は無かった。
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