フードコートの天使

美浪

再開 feat.アキラ

第1話片思い再び

本当に心から理想の相手と言うのは居るもので。


その人に出会ってしまってから何もかもがそれ一色に染まる。


俺は大学生の頃。


5年前にそんな人物と巡り会えた。


その人と実際に会ったのはたった1回だ。


出会いのきっかけはネットゲーム。

同じギルドと言うかチームのメンバーのリア友でその人は招待される形で入ってきた。

それから個人的にもリンクした。


相手は勿論、男性。

中学生くらいから自分の性癖には気付いて居た。俺は男性が好きだ。


だからと言って出会い目的でゲームを始めた訳では無い。同じチームにも男性は沢山居たし。


でも、この人とは最初の挨拶時から本当に気が合った。


毎日、アバター越しの君との会話が楽しくて。文字だけの関係なのに。沢山、ゲーム内で語りあった。

そして顔も見た事が無い君に恋をした。


それは当時付き合っていた彼氏と別れる程ゲームと言うか君にのめり込んで行った。


そして・・。オンラインだけの関係から同じ学生と言う事もあり連絡先を交換。向こうも本当に気が合うと言ってくれていたし。


それからはほぼ毎日連絡をしたまに電話したりとリアルでも仲良くなってサシでオフ会まで漕ぎ着けた。



会って・・・。

可愛さに衝撃を受けた。

そして言うまでもなくもっと好きになってしまって・・。


友達でも良かったんだ。


しかし、その後・・。

俺の気持ちは何故か相手にバレてしまった。

そんな露骨な態度を取った?と言えばそうかもしれないが。

もう、思い出したくないくらい告白も出来ないまま終わると言う黒歴史。


突然、彼はゲームを辞めてしまった。

同時に彼のリア友はチームを抜けて俺はリンクを切られると言う事態になった。


メールや通信アプリは音信不通。ブロックされた様だ。


電話はもう怖くて出来なかった。


程なくして俺もゲームから疎遠になった。


でも、今でも忘れられないんだ。


君の心も見た目も・・・。忘れられないんだよ。


ちゃんと告白して振られたかった・・。



・・・・・・・・・


さて。現在。


ブルーローズショッピングモールの3階フードコート。

それが俺の職場。


大手ファストフードチェーン店#SSS__トリプルエス__#バーガーの店長になって3年。


この店はまだ1年目だ。


フードコート開店10分前です。館内放送が流れた。



ここ、ブルーローズショッピングモールの開店は9時だがこのフードコートの開店時間は10時。


フードコートは店が開いてなくても母店が開いてたら自由に利用出来るのがお客様にはメリット。別に何も飲み食いしなくても利用出来る。


しかし、俺達店側からすると昼飯時に店を利用したお客様が座る事が出来なかったりする事もありそれはデメリットだと思っていたりする。


さて、平日にも関わらず今日もモール内にあるフードコートに隣接するゲームセンターのオープン待ちの客がチラホラと座っていた。

ゲーセンの常連さんは何して生活してるのかなあ?等と何時も思うがそこは仲良くなっても踏み込めない関係性。


「店長、サラダは何個作ります?」

「んー。6個にしよ。」

バイトの子とそんなやり取りをして、間もなく今日も1日頑張ろうと言う時だった。


フードコートの中央辺りに1人の男性が此方を見て立っていた。


ドクン・・・。胸が高鳴る。


見間違う筈がない。


キュンキュンとあの頃を思い出して心がときめく想いがした。


本物?



身長160センチくらいに見えるし。


まだ顔は良くは見えないが似ているだけ?



そんな彼は俺と目が合うとニッコリと微笑んだ。


嘘・・・。笑った・・・。

あの頃と同じ様な天使の様な可愛い笑顔で。


君はゆっくりと俺の方に歩いて来て。


目の前に来た。



ごくっと唾を飲み込む。


ジュン?だよね?



「いらっしゃいませ。」

何と声を掛けるか迷った挙句出た言葉。


「隣の・・。」

君はそう言って微笑んだ。

「隣のタコ焼き屋の店長として本日付けで赴任しました。#大濠__おおほり__#純です。宜しくお願い致します。」

初めましてとは言われなかったけれど。

余りにも普通な態度。


そっか。大濠君って名字だったんだ。

当時はジュンってハンドルネームしか知らなかった。

「SSSバーガー店長の西山#暁__あきら__#です。此方こそ宜しくお願い致します。」

俺もペコっと頭を下げた。


「ブルーローズモールは初めてなので色々教えて下さいね。」

「俺で良ければ。」

これからお店、お隣さんか。


不思議な縁だ。


もう、あの時の事なんて忘れているんだろうな。

本当に会ったの数時間だし。


俺に取っては本当に一世一代の恋ってくらい惚れたのに。


タコ焼き屋チェーン店に就職した事すら知らなかった。


「店長!電話でーす!」

バイトの子がそう言って我に返った。


「あっ。じゃあまた!」

ジュン君に微笑んで店の中へ。

君はヒラヒラと手を振って隣の店へ消えて行った。


「お電話ありがとうございます。SSSバーガーブルーローズ店です。」

電話の主は他店のマネージャーだった。

「資材?えーと。ちょっとお待ち下さいねー。」

近隣店舗で資材の貸し借りと言うのは日常茶飯事だ。

ハンバーガーで使用するバンズ、野菜やソース類だけでなくストローや紙コップ、洗剤に至るまでSSSバーガーでは決められた物しか使えない。


「バンズ大丈夫ですよ。はーい。では。」

だいたい売上の予測で発注、プラス1ケースから2ケース多めに発注するから足りるが時折イレギュラーで売れるからなあ。


11時。アルバイトのフリーターから主婦も揃いお昼のランチタイムに備える。


店長と言う役割は普段はあまり店には入らない。

基本は雑務。

この店の経営を任されている。


「忙しかったら呼んで下さい。」

主婦のマネージャーにそう言って店の奥にある休憩室兼マネージャールームに入った。


モールの店舗は狭い。

独立店舗、フードコートとかでは無いドライブスルー等がある店舗は店の広さ分の休憩室がだいたい建物の上階に作られているんだが。此処の店舗は8畳程しかない。


パソコンに向かって溜息を付いた。


やっぱり、俺は忘れきてれ居なかった。

あれから他の人を好きになろうとか一夜限りのお付き合いとかしたけど。


まだ心の底に・・・ジュンが居たんだ。


「仕事。しなきゃ。」


俺の2度目の君への片思いが始まった。

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