第74話 物欲センサーで動く!
「大将と戦うんですか?」
「うむ」
「一応、聞きますね──何故?」
「久しぶりに稽古をつけたくなっただけじゃ」
嘘だっ!
「本音は?」
「鼻っ柱折ってやろうかと。なぁに真剣ではやらん……この棒で十分だな」
悪く笑いながら俺に言う大将は、やはり鬼だと思う。そして真剣な話の時はいつもの年寄りみたいな語尾じゃないな。
棒で戦うというのも挑発だろうけど──
──少しぐらい自信持たせてくれてもいいじゃないか!
確実に心を折りに来てるだろ!?
「鼻っ柱折らなくていい────痛っ!?」
折らなくていいですと言おうとした瞬間、棒を俺に叩きつける。
「さぁ──血が沸る戦いをしよう────ちなみにわしが認めたら褒美をやる。今回は物だな」
「────!?」
大将の褒美か……。
前回は魔法剣と聞いたが──結局まだ教えて貰っていない。今後教えてくれるんだろうか?
今回は物と言っている。直ぐに渡してくれるだろう。
正直、エリクサーとか持ってるような人だけに期待してしまう。
それに大将は剣ではない……死にはしないはず────たぶん。
「どうする? 景品は────ダンジョン産の物だぞ?」
「やります!」
ダンジョン産とな!? この世界にはダンジョンがあるのか!
俺は胸に期待を膨らませ、勢いで返事する。
「ふむ、その意気や────良しっ!」
既に魔力もほぼ尽きている──魔技は使えない。
──だが!
俺の物欲センサーがここで動けと言っている!
残りわずかな闘気を纏う。
おそらく──使える時間は5分ぐらいだろう。
俺は抜刀の構えを取る。
「ふむ……」
大将は眺めているだけで攻撃する気はないようだ。
俺は一気に加速し────剣を振り抜く。
ギンッ
大将は棒で俺の一撃を簡単に受け止める。
────!?
おかしいだろ!?
何でただの棒で闘気を纏った剣を防げるんだよ!
実は棒は見た目だけなのか!? 実はミスリルとかじゃないだろな!? ギンッていったぞ!?
あれか!? 闘気か!? 闘気纏ってんのか!?
使わないとは聞いてないけど────それされたら俺にはどうにも出来なくね!?
「ちなみに──わしが認めなければ────わしの直弟子な?」
三日月状に口を歪ませて話しかける大将が悪魔に見えた。
「はぁ!?」
後出しで条件公開とかずるいぞ!
しかも、それ大将の胸三寸で決まるし!
「物事は対等じゃないとな?」
既に結果が決まっている条件に対等もクソもないと思う。
「一矢報いるっ!」
闘気が尽きる前になんとかしなければ────
より強力な────
より頑丈な────
より威力のある攻撃が必要だ────
剣に纏っている闘気はこれ以上増やせない────ならば、闘気の密度を上げるしかない。
これはリリーさんからの記憶で物質化させる原理だ。既にゴブリンキング、キマイラ、ワイバーン、先程ダリルさんの卒業式の時に使っている────それを更に昇華させるイメージだ!
闘気をより鋭利に──
より固く──
──剣に集中させるようにイメージする。
──出来た────これなら、ワイバーンの時より、切れ味はかなり強力なはずだ。
「ほぅ……その領域まで達するか……」
大将が何か言っているが────俺に余裕なんかない。
さぁ──
────行くぞっ!
俺は剣に闘気を自分できる限りに強化し────
袈裟がけに斬り込む。
大将はそのまま棒を横薙ぎに振る────
「──ふむ──だが、まだ甘い────そらっ」
軽い掛け声と同時に唐竹が繰り出され────俺の横薙ぎの斬撃と交差する。
────ガギンッ────
……この音は────!?
俺は目の前にある買ったばかりの剣に視線を移す。
「買ったばかりの剣がぁぁぁぁぁぁっ!?」
俺はその場に崩れ落ち、剣を見ながら叫ぶ。
一目惚れした剣が真っ二つに……新品なのに────なんでこんな事に。
一目惚れ?
確か……ティナとの出会いも一目惚れだったな。
そして、別れもキスして真っ二つだ……。
まるで──記憶にある、俺とティナのような出会いと別れだな……。
「はっ、はははは……俺の人生なんて所詮はそんなもんか……」
俺は乾いた笑いをし、虚ろな目で顔を上げる。
その視線の先にはご満悦の大将がいた。
「コウキ────凹みすぎじゃね?」
俺の凹みぶりに声をかける大将。
「大将────俺の人生に一目惚れは必要ないみたいです……」
「うむ、一目惚れなど一時の気の迷いじゃ。数年付き合っていく内にそんな感情は薄れていく────続いてたらそいつ病気じゃな」
大将が言い切った!? ダリルさんも横で苦笑いしてるし!
「病気なんですか?」
「うむ、人と言うのはな────慣れが一番怖い。……それを知ってほしかっただけなんじゃ」
絶対嘘だ! 俺の凹み具合に顔が若干引き攣ってるぞ!? さっきまで鼻っ柱折るって言ってたじゃないか!?
もう、俺の心はぼっきり折れたよ!
「でも、俺は一目惚れであっても……その気持ちを大事にしたいです……」
「コウキよ……時には新しい道に進むのも良いものじゃ。────ほれっ」
大将はどこからか出した包みを俺に放り投げる。
「──これは?」
「これはさっき言ってたダンジョン産の報酬じゃ。残念ながらわしが認める程ではなかったが────努力賞じゃな」
「開けても?」
大将が頷いたので包みを開ける。
中身は────刃渡が30cm程のナイフだった。
剣が良かった……。
「親父!? あれって!?」
「うむ、あれじゃな。コウキよ、がっかりした顔をするでないわ。魔力を込めてみよ」
そんなに顔に出てたのか……。ダリルさんが驚いた顔してるんだけど、このナイフってそんなに良い物なのか?
俺は言われるままに魔力を込める。
────!? これは!?
魔力を込め終わると、刀が出来上がっていた。
「大将!? これはいったい!?」
「うむ、これはわしが昔ダンジョンマスターを討伐した際に手に入れた────国宝級の武器────その名を【無形の刃】じゃ。わしが昔愛用してた武器じゃ」
国宝級!? 無形の刃!?
「武器の形を変えれるんですか!?」
「持ち手のイメージ次第で変わる────どうじゃ? 新しい剣も良かろう?」
めっちゃ良いです! 一目惚れとかどうでも良くなるぐらい良いです!
そうだよな! 恋も一目惚れに拘らずに────どんどん恋をしていったらいいじゃないか!
俺は大将からの褒美で有頂天になっていると────横からダリルさんが言葉を発する。
「……コウキ、お前──これから狙われるぞ?」
「────何故!?」
ダリルさんの言葉にテンションが上がっていた俺は一瞬止まる。
「だって、それ九刃はもちろんのこと────世界中の強者が欲しがってるからな……」
────!?
「大将っ! これ────「男が一度差し出した物を引っ込める事は出来ん!」──…………」
返品しようと大将に話しかけたが間髪入れずに断られる。
「いや、この武器は俺には高値の花だったようです。普通の武器下さい」
うんうん、女性も自分と釣り合ってる方がいいもんな!
「いや、コウキはもう内弟子じゃし構わんじゃろ。前にも言うたであろう? 後継者じゃと」
それ、恋愛の方じゃないの!? 剣の後継者とか嫌なんですけど!?
「…………」
俺は絶句して声が出せない。
「まぁ、なんだ……強くなれ……大丈夫だ。俺は狙わないから」
ダリルさんの優しさが伝わってくるよ……。
この後、この武器の話を聞くに────
大将が悪鬼の如く暴れまくった時に使った武器でもあり、その時に世界的に有名になったらしい。
どんな、武器の形にでも形を変え、更に魔力や闘気の伝導率も高く、その有用性は剛の者であれば喉から手が出る程で、弟子はもちろん、その他の人も武器欲しさに大将に暗殺者を放つ程だとか……。
いや、本当勘弁して下さい!
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