第73話 卒業=生き残り!?

 俺達は到着する。


「テレサさんはいないんですか?」


 またテレサさんの死刑執行を受けるのかと思っていたのだが、いつもの場所にいたのはダリルさんだけだった。


「あぁ、お前はもう魔法を使えたと聞いたからな。──って、何で親父がいる……」


 どうやらテレサさんの地獄からは解放されたようだ。


「まぁ、暇じゃから訓練の様子見に来ただけじゃ。気にせずやれ」


 大将がダリルさんの問い掛けに安定の答えをする。


「……そうか……コウキ、先に伝えておく。俺達はおそらく明日この街を出て行く事になる……訓練は────今日で終わりになる」


 ──!?


「何でですか!?」


「それはまだ言えん……だが──今のコウキは既にAランク相当の強さはあるはずだ。ギルマスぐらい逃げの一択なら大丈夫だろう。今日は────俺と真剣勝負の模擬戦で訓練を終わりにする──」


 はあぁぁぁーっ!!! 無理だろそれ!


 ダリルさんと勝負とか────斬殺される未来しか見えないだけど?!


 それで大将付いて来たのか!?


 それと、まだ言えんって────何でだ!?


「いや、普通に訓練して終わりでよくないですかね?」


「ダメだ。行くぞ────」


「えっ!? ちょっと待っ────」


 ダリルさんは俺に問答無用で斬りかかってくる。


 俺は、瞬時に闘気を纏い──新しく買った剣を使い受け流す。


「上手くなったじゃないかっ! 速度上げていくぞっ!」


 上げないで!


 もう、いっぱいいっぱいだから!


 今のギリギリだったから!


 そんな俺の気持ちとは裏腹に容赦無く迫る剣戟────


 なんとか捌いているものの、一撃一撃が重たく──そして速くなっていく。


「ふむ、雷光────」


 うぉいっ! なにが「ふむ」だよっ!


 さりげなく雷光使ってるじゃねぇか!


 これあかん奴や……その内──死んでしまう!


 俺も魔技を使う。


「疾風迅雷──」


 同じ技じゃ──質で劣る────なら、俺の中で最強の技だ! 雷光より遥かに燃費が悪いが仕方ない!


 鋭く自分の最速の突きを繰り出す。


 この技なら────


「見違える成長だ────」


 感嘆の声を上げるダリルさん。


 俺は避けられながらも次々と攻撃させまいと猛攻する。


 体が軽い──思い通りに動く────それにこのミスリル製の剣に魔力が通りやすい!


 今の俺の状態は────まさに波に乗っている!


 今こそ──今までボコられた鬱憤を晴らす時っ!



 調子に乗った俺はこのまま──押し切るっ!


 疾風迅雷で飛躍的な身体能力が向上した状態で更に剣にその全てを込める。


 剣はバチバチっと放電しつつ、風魔法が剣を中心に小さな竜巻を発現させる。


 それを──至近距離で横薙ぎに振る────


 この一撃はまさに必殺技!


 魔物でも何でもないダリルさんに放つのは間違っている気がするが────


 この人の事だ死にはしないだろう────


「覚悟っ!」


 剣と剣が重なる────


「一閃」


「へっ?」


 ダリルさんの言葉と共に剣戟が重なった瞬間に大爆発が起こる────


 地力が違う為か──その衝撃波で俺は踏ん張る事が出来ずに空に放り出される。


 疾風迅雷を発動している為か、致命傷はないが────所々に細かいダメージは受ける。


 ────!?


 空中に滞空している間に目の前にダリルさんが現れる。


 やっ、やばいっ!


 なんとかしないと!?


「生き残れば──無事訓練終了だ────」


 空中で身動きとれないのに何言ってやがるっ! 生き残ればって────殺す気満々じゃないか!?


 目の前の光景はスローになっている。


 モーションに入るダリルさん────


 この窮地を脱却する為に────思考をフル回転する。


 ふと大将が視界に入る────


(観察せよ)


 ──そう口が動いた気ががした。


 大将は確か────恋愛講義でも言っていたな。


 ただ、一つ言えるのは────現在は既に観察する暇はない! そういうのは初めに教えてくれよなっ!


 俺はスローモーションに見えるダリルさんに視線を戻す。


 考えろ、考えろ、考えろ────!?


 そういえばっ!?


 ────これだっ!


 ダリルさんとよく模擬戦をしていた為か、


 何でなのかとか──今はそんな事はどうでもいい────


 俺は隙のある、左肩目掛けてゴブリンキングにした様に闘気を集約させて突き刺す。


 わずかにダリルさんの剣先がズレる。


 その瞬間を見逃さずに風魔法を使い────自分の位置を移動させる。


 当たれば間違いなく死んでいただろう一撃は俺の隣を通過する。


 そのまま、風魔法を使い──着地するが限界になり、その場で四つん這いになる。


「はぁ……はぁ……」


 息切れを起こしている俺に足跡が目の前に迫る──


「良くやった。お前は────卒業だっ!」


「────やっと地獄から解放されるんですね……」


 俺は顔を上げて、なんとか言葉を発する。


「「ふっ、はははは」」


 俺達2人は目が合うと一斉に笑い出す。





「二属性を同時に使い──闘気も十分なレベルで使いこなすとはな……」


 一部始終を見ていた大将が見詰めながら呟く。


「大将……」


 大将を見詰めて俺はやり切った表情を浮かべる。


「わかっている────今度はわしが相手してやろう」


 ちがぁぁぁぁうっ!!! そんな言葉は待ってなぁぁぁぁいっ!!!


 阿保みたいな訓練やらかす大将と模擬戦とか勘弁願いたいっ!


 俺の卒業式はまだ終わっていないらしい。

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