第72話 当たり前を当たり前と思わさせないっ!

 ティナは確かに美人で、とても好みなんだが……俺に対する目が飢えた猛獣……。


 記憶から察するに……たぶん──このまま一緒にいたら俺は襲われるだろう。


 ワイバーンを虫けらのように狩る人を止められる自信がない! 


 エリーもとても可愛い、俺の事を考えてくれる。


 ただ、デートの時の最後が気になる……。



 2人共、俺が記憶を奪った────いや、封印と言った方がいいだろう。実際、2人の記憶は戻っている。失っているのは今の所俺だけだ。


 封印してしまった時に酷い仕打ちを受けている。だが、それ以前の感情は確かに俺の事を好いていた。


 今は封印も解けて2人共、俺に好意的だ────どうしよう?



「大将──俺どうしたらいいかわかりません……」


 俺は串焼き屋のアルバイトが終わり、大将に話しかける。


「んなもんどっちとも付き合わんかっ! 重婚しとる奴なんか貴族とかいっぱいおるわいっ!」


「俺貴族じゃないですし……それに1人でも付き合えるか不安なのに2人とか無理ですよ……」


「ワイバーン倒した時の根性出さんかっ! 何をヘタレておるかっ! そんなもん勢いじゃっ!」


 そんな勢いがあってたまるか!? しかもワイバーン諸々けしかけたの大将だしっ!


「何かアドバイス下さい!」


「ハーレムが嫌なら、どっちか選べばいいじゃろが」


 そうなんだけどさ! 何か気の利いた言葉とか欲しいじゃないか!?


「決めかねています」


「近い内に返事するんじゃったか?」


 早ければ領主のパーティーの後にでも、無理なら明後日には返事をしたい。


「そのつもりです」


「なら明日までに決めておけ。とりあえず────エリーにする場合は覚悟しておけ……赤髪鬼も覚悟はいるか……というか──逸物抱えた奴ばっかじゃな……」


 うぉいっ! 不安な事言うなよっ!



 そういえば──好意を向けてくれた人と言えば……クレアさん、リリーさんの2人は最近見ないな。


 記憶封印したからかな?



「じゃあ、ダリルさんの所に行ってきます」


「うむ」


 俺は時間が来たので、門に向かって歩き出す。


 …………。


「何で着いて来るんですか?」


「暇じゃし?」


 いや、来なくていいんですけど?!


「…………」


「────時にコウキよ……好きな人に振り向いて貰える方法知りたくないかのう?」


「…………知りたいです……」


「歩きながら話そうじゃないか……」


「はい……」


 ちっ、卑怯なっ! そんなの断れるわけないじゃないかっ!


 歩きながら大将は話し続ける。


「一つの方法として覚えておくと良い。いつも同じ当たり前を当たり前と思わせておいて────当たり前じゃなくなせるんじゃ」


「全く意味がわかりません」


 俺は正直に答える。


「コウキよ……少しは考えんか」


「当たり前を当たり前じゃなくなせてどうするんですか?」


「わからんか……まだまだじゃのう……。例えば毎日恋人でもない人に手紙を書き続けたとしよう」


 なるほど────


「毎日書いて──止めるわけですか!?」


「そうじゃ。そうしたら相手はどう思うかのう?」


「気になりますね。何かあったんじゃないかって……」


「うむ。つまりは──意識をこっちに向けるんじゃ。そして、気持ちを確かめさせる。よく死んだらその人の大事さを知ったとか言うじゃろ? あれと同じじゃな。自分の価値を確かめさせるんじゃ」


 さすが大将だぜ……そんな方法があるとは。


「しかし、これってたまにしかしてなかったら意味無いですよね?」


「────意味というか効果が全く無いっ! そもそも……これはいつも定期的に行っている事を止める事に意味があるっ! 不定期にやっとるのを止めても──全く気にされないんじゃ!」


 全く気にされないんじゃ──されないんじゃ────されないんじゃ────


 ──と最後の言葉が辺りに響き渡る。周りの人は何事かと視線を向けて来るが、大将だとわかると直ぐに視線を逸らしていた。


「じゃあ、定期的に何もしてない俺には────」


「意味がないのう」


 そんな事だと思ったよ!


 俺はがっかりした様子を見せるが、大将の話は続く。


「コウキ、良いか? これはある程度仲良くなった時にする方法じゃ。友達以上になりたいと思った時にやって──相手の反応を見るのじゃ。その時、脈があるなら────何かしらの行動を行うじゃろう。それを見落とすでない。今は役に立たない事でも、いつかは役に立つ────かもしれん」


 確かに、別に手紙じゃなくても他にも使えるよな。


 そういえば────前世で、中学生の時まで毎日俺を迎えに来てくれてた幼馴染の女の子が急に来なくなった時は気になったな……。


 まぁ、好きな人が出来たからそっちを迎えに行ってたと後で知ったけどね……。


 俺は思い出して、哀愁を漂わせる頃────


 門に到着した。


「レンジ様!? ────と坊主?? どうしたんだ?」


 門番さんが凹んだ俺を気にしてくれる。


「ちょいと、女絡みでのう」


 大将が代わりに答えてくれる。


 合ってはいるんだが──その言い方は────


「あぁー、坊主フラれたたのか……まぁなんだ……顔は良いんだ。人生そのうち良い事あるさ……」


 そんな俺を見た門番さんはフラれたと思ったようだった……。


 こうやって誤解が生まれていくんだな……。


 更にその言葉に落ち込んだ俺は門番さんに手を軽く上げて応え、そのままダリルさんの待つ場所に向かう。


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