第71話 何か感じた気がした!

「着いたぞ? どうしたんだ?」


 武器屋に到着し、ティナが俺を降ろしてくれる。


 俺はお胸様を堪能して呆けている。今の表情はだらしない顔をしている可能性が高い。


「なんでもないです……中に入りましょう!」


「コウキ────これを……」


 麻袋を俺に渡してくるティナ。中身を見ると先程受け取った金貨だった。


 ────これワイバーンの換金分全部じゃないか!?


「いやいや、俺が倒したの1匹ですから金貨50枚で大丈夫です」


「私がコウキにやりたいんだ……」


「気持ちは嬉しいんですけど、やっぱり自分の稼いだお金で剣を買いたいんで今回は50枚だけ貰っておきますね?」


 少し残念そうな顔をされたけど、お金の事はしっかりした方がいいと思ったので引く事はしない。



 そんなやり取りの後、俺達は再度店に足を踏み入れる。


「らっしゃい。おっ、もう金が用意出来たのか?」


 さっきの店主が俺達に気付く。


「なんとか……また剣見させてもらいますね」


 剣が並んでいるコーナーに足を向ける。


 ────やっぱり魔法剣を向かうならミスリルか……しかし……俺の持ち金はワイバーン1匹分の金貨50枚……100枚には届かない……。


 初心者には頑丈な剣の方がいいかもしれない────これはっ!?


 脇差ぐらいの長さだな。


 刀みたいな剣だな。両刃だし、反りもあまりない──けど、刃の幅は刀ぐらいだ。


 長さは俺には丁度良いし、刀が欲しい俺にはそれに近い形をしているこの剣は一目惚れに近い感情を感じる……。


 朝は無かったはず……いや、奥の方にまで目がいかなかっただけか。


「店主──これは?」


「ん? あぁ、それは──昔に流行ってた刀という奴を俺が見様見真似で作った奴だな。それが気に入ったのか? ミスリルと鋼を使った合金だから耐久も高いし、魔法剣も使えるぞ?」


 やはり刀は存在するんだな! ここには無いみたいだが、いつか欲しいな。


「……いくらですか!?」


 今はとりあえず買えるかどうかわからないこの剣の事を聞かなければ!


「ミスリルの量も長剣の1/3以下だし──金貨50枚ってとこだが……この10年全く売れんから40枚でいいぞ?」


「買ったっ!」


 即決した。


 俺はホクホク顔で店を後にする。



「コウキ、あれで良かったのか? 他にももっと良い武器あったぞ?」


「これ格好良いじゃないですか! 一目惚れってやつですよ!」


「そ、そうか……」


 なぜ、そんな寂しそうな目をする……。


「どしたんです?」


「いや────一目惚れって響きが懐かしいなって……私達もお互いに出会いは一目惚れだったからな……」


 ……今となっては情報としてしかわからない……。


「そうなんですね……もし、ティナさんが辛いなら──記憶をまた無くせますよ? 3回目以降のキスはお互いの記憶を消せますし……」


 できれば──記憶を消すのは正直したくない。俺も後から知らない情報を知るともどかしい気持ちになるから……。でもティナがそれを望むなら俺はする────


「──!? ……いや、私はこの先もずっとコウキと一緒にいたい……だから──このままでいい……愛してるよ。コウキ……記憶を消さずに出来るのか?」


「──わかりました。ティナとエリーは普通にキス出来ますね」


「デート中に他の女の名前を出すのは無粋だぞ? お仕置きだ────」


 ティナの両手が俺の肩を掴む────


「すいま───」


 謝ろうと声を出そうとして唇が重なる────


 ────恐れる感情、大好き──いや愛しているという感情が入り混じって俺に入って来る。


 エリーにしても、俺をこんなに好きに想ってくれているのに何で────何で俺はそれに応えられない?


 もどかしい……俺も好きになってあげたい────


 何で好きになれないんだ!?


 何で────俺はこんな他人事なんだよ……。


 好きって感情が湧いて来ない……。


 ────やはり──記憶を失った後の最初の印象、そしてその後の付き合い方と過去の情報が流れ込んで来る事によって俺の中での思考が混乱して二の足を踏んでいる?


 そのせいで感情が揺さぶられない気がする。


 大将の言うように──付き合っていたら────


 いつか、好きになれる日が来るかもしれない……。


 エリーとティナ、2人とも俺からしたら付き合いが短い。


 やはり、どちらかと付き合ってみよう。



 俺はティナを抱きしめる。


「コウキ?」


「すいません……俺に記憶が無いばかりに辛い思いをさせてしまって……」


「いいんだ。私はもうコウキを失いたくない────」


 もう一度キスをされ、照れたような笑みを浮かべるティナ。



 その表情に俺は胸が熱くなる────



 これが──恋なのか何かわからない────



 だけど──俺は幸せな何かを感じ取れた気がした……。



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