第66話 一瞬、神様かと思ったよ!?

 エリーとのデートの後────大将の元に俺は向かった。


 場所は──もちろんゴメスさんの店だ。


 最近はあの店によくいると聞いている。


「大将……」


「聞きたい事はわかっとるわい……エリーじゃろ?」


 ──!? またこの人覗いてたのか!?


「まぁ、そうなんですが────いったいどこで覗いてるんですかね?!」


「まぁ、暇じゃからな。エリーの件はそのうちわかるわい……」


 いや、店あるだろ!?


「何かあるんですか?」


「ちょいややこしいんじゃ……嫌でも明後日の夜にはわかるわい」


 明後日というと────領主主催のパーティーしかないんだけど!?


 嫌な予感しかないんだけど!?


「俺、たぶん当日腹痛くなって休みますね」


「阿呆言うでない……一般人が貴族の命令に逆らえば打ち首もんじゃ。コウキは必ず参加せよと聞いておるぞ?」


 貴族こわっ! しかもそれどこ情報だよ!?


「大将なら断れるんですよね?」


「まぁ、わしに逆らう奴なんぞおらんわい……おったら死ぬからのう」


 大将はもっと怖いなっ!


「そこは大将のお力でお願いします」


「コウキ────行かねば、エリーの事もわからんぞ?」


「……わかりました。行きます」


 エリーの様子は確かに気になった。行ったらわかるなら行くしかないか。


「それと、明後日も店は休む。ダリルとの訓練は朝から────そして、わしも参加する。では──明日は最後のデートじゃな。頑張って来るが良い」


「────!? 何さらっとぶっ込んで来てるんですかね!? 今はそれより、明日だった──大将、何かアドバイスを!」


 明後日も休む────まさか俺のデート期間中休んでるんじゃ!? 


 しかも大将が来るとか何か起こる気がするんだけど!?


 だが、しかし今は明日のティナとのデートを切り抜けなければならない……何かアドバイスが欲しい!



「────ガリー食いに行け」


一呼吸置いた大将から出た一言目はもはやアドバイスではなかった。


「絶対嫌ですっ! 何ですかあの素材を冒涜した料理は!?」


「あやつの料理は──全ての味覚を破壊する。────わしの知り合いと言えば……サービスしてくれるであろう」


「まさかの知り合い!? しかもサービスとか地獄を見る予知しか出来ないんですけど!?」


「昔の知り合いじゃな……それより、明日は赤髪鬼じゃったな……」


「話を逸らしましたね……赤髪鬼じゃなくて、ティナさんですよ」


「まぁ呼び名などは大した問題ではない。──確かアマゾネスじゃったから────男らしい所をアピールすれば良いじゃろう。何か予定とかは?」


「確か防具屋がどうとか言ってましたね」


「ふむ、では服屋と同じで良いじゃろう。エリーの時はとても良かったぞ?」


 初めて褒めてもらった気がするな……あれで良かったのか……。


「わかりましたっ! 大将の教えを守りながら頑張りますっ!」


「うむ、明日も覗きに行くから楽しみにしとるわい」


「……また見に来るんですか?」


「暇じゃしな」


 いや、店あるだろ?!


 …………出来れば邪魔されたくないんだけどな……。


「大将──「コウキ、ほれっ」────これはっ!?」


 俺が話そうとすると遮られる。


 テーブルに麻袋を置く大将。中身がチラッと見るに────金貨だっ! それも10枚は確実にある!


 俺は目を輝かして大将を見る。


「一生付いて行きますっ!」


「……現金な奴だのう……その言葉忘れるなよ?」


「はいっ!」


 これで明日乗り切れるっ!


 大将は鬼だけど、たまに優しさを見せてくれる。


 今なんか神様のように見えるぜっ!


 転生した時に現れたブーメランパンツの変態神より、頼りになるぜっ!


「ぷは〜、この酒最高だのぅ。ゴメス、次も同じ奴頼むわ」


 そんな事を言いながら、去りゆく大将を見送る。



「坊主、勘定は金貨10枚だ……」


 ゴメスさんの声が店内に響き渡る。


「はっ?」


「だから、金貨10枚だ」


「はい? 今回も一杯だけですよね?」


 俺は聞き返す。


「そうだな……けど、それ王様が飲むような酒だぞ?」


 はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!


 なんでそんな酒がこんな店に置いてあるんだよっ!


「嘘でしょ?」


「おやっさんが取り寄せるように言ってた奴が、今日届いたんだ……ご愁傷様」


 確かに酒が最高とか言いながら帰ったけど、そんな酒を飲んでるとか思ってもみなかったよ!


 しかも次も頼むとか言ってるじゃないか!?


 もう次は来ないからな!




 俺は項垂れて金貨10枚を渡す。


「毎度あり……まぁ、元気出せ……お前のお陰で赤字にならなくて済む」


 いかついゴメスさんは哀れむ目と同時に赤字にならなくて済むと一安心しているようだった。


「はい……」


 大将……どんだけ無銭飲食してるんだよ! 皺寄せが俺に来てるぞ!?


 俺は残った金貨3枚を握りしめ、ゴメスさんの店を後にした。


 明日────乗り切れるのだろうか?

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