第54話 前を向いて行くっ!

「じゃぁ────全部終わったんですね」


「そうじゃな……わしもこれで──ここからおさらばじゃな。元々、氾濫の予兆があって頼まれておっただけだからのう」


 大将ってその為に街にいたんだ……というか串焼き屋って、やっぱり暇潰しだったんだな。


「ちなみに俺達もだな……ギルドの依頼で来ただけだしな」


 ダリルさん達もか……。


「そうですか……」


「まぁ、しばらくは街にいるし────今後の事はまた考えよう。コウキは俺の教え子だからな!」


「そうですね。俺も今回は弱さを実感しました。もっと強くなりたいです」


「……そうか。今はとりあえず休め────また明日な」


 ダリルさんと大将は俺の元から去り──


 ──その場にエリーさん、カミラさん、ティナさんの3人が残った。


「「「…………」」」


 3人の視線が俺に集まる……気不味い……。


 誰か助けてくれ……。


 そうだ!? 今こそ大将の教えが役に立つ時じゃなかろうか!?


 会話をして情報を引き出すんだ!



「えーっと、3人は俺とキスを2回したんだよね?」


 コクッと、3人は頷く。


 頼む、会話をしてくれ。


「…………覚えてなくてごめんね?」


 コクッと、また3人は頷く。


 会話が続かない……大将にもっと他に教えてもらっておけば良かった。


「…………俺って──君達とどんな関係なの?」


「「「嫁?」」」


 何で疑問形!? しかも増えてるし!?


 さっき棚上げしたばっかりだけど、3人から言われると気になるぞ?


 いや、そもそも俺は結婚出来る歳なのか?


 中学生ぐらいの年齢のはずなんだが……。


 わからない……さっき大将達に聞いたら良かったかもしれない。


「いや、それはないでしょ!?」


 フルフルと首を横に振る。


「あの、会話しません?」


「……何を話すのかしら?」


 ティナさんが答えてくれた。


「いや、3人の事全く覚えてないから何か教えてほしいかなと……」


「嫁よ。他の2人は知らないけど──私は間違いなく嫁。2人で初めての夜を過ごす時に────コウキのキスで記憶を失ったわ。そして──2回目のキスで思い出せた。今度こそ失わない!」


 最初にティナさんが話してくれる。


「なっ、なるほど……」


 初夜で記憶を失わせて、2回目は俺を助ける為にキスをしたのか?


「私は──未来の妻よ……そう言ったはず。2回目のキスはコウキが救出する際に力がほしいと無理矢理した。だから責任を取る必要があるわ」


 次はエリーさんだ。


「……そっ、そうですか……」


 力の為にって──俺、凄い最低な奴だな……。


「ごめんなさい……私は嫁でも無く、未来の妻でもないです。1回目のキスで──たぶん……私の嫌な記憶を奪ってくれました。2回目はレンジ様の────コウキ君にキスをしたら金貨10枚という大会で勝ち取ってキスをしました。でも、コウキ君の時に奥さんになりたいと思いました」


 最後はカミラさんが話す。


 何か少し引っかかる言い方だな……何が引っかかるんだろ?


 ん? 大会って────!?


「……ちょっ、ちょっと待ってね?」


 確かに記憶を奪った心当たりはある。しかし、2回目のキスは──あの、大量にいた参加者の中で勝ち取ったのか!?


 俺は目を瞑り、考える。


 とりあえず、好意を向けられているのはよくわかった。


 正直に答えてくれている気もするんだけど──── 問題は俺に全く実感が無いのと、記憶が無い事だ。


 なんか罪悪感の方が凄く強い。


 特にエリーさんとか2回目のキスなんて俺が鬼畜過ぎるだろ……。責任取れというのもわかる気がする。


 ティナさんも2回目なんて俺を助ける為じゃないか……でも、それまではどんな関係だったんだろ? さっきまで謝って泣いてたぐらいだからな……気になる。


 カミラさんはなんというかー、俺が助けたくて助けて記憶を奪った後に──大会で勝ち取った偶然が重なっているな……あの時、俺本気で逃げてたはずなんだけどな……何で捕まったんだ??


 好意を向けられるのは素直に嬉しい……。


 嬉しいんだけど──記憶が無いせいで、このまま全てを受け入れる事は無理だ。


 今の俺からしたら────初対面に毛が生えたぐらいの感覚なんだから……。


 記憶があった時は何かしら俺もこの子達に好意があったんだろうか?



 とりあえず────逃げよう。


 頭をリセットしたい。


 俺は立ち上がり──雷光を発動し────


 その場から飛び出す。



 三者の声が聞こえたが────俺にはこれ以上聞くだけの余裕がない。




 ────!?


 エリーさんとティナさんが追いかけてきたか……。


 なんか大将発案のイベントと重なるな。


 俺はエリクサーのお陰か、すこぶる調子が良い。


 捕まえられるものなら捕まえたらいい。


 少しでも────俺のこの、やるせない気持ちを発散させてくれ……。


 さぁ、鬼ごっこの始まりだ────




「待てって────言ってるだろうがぁぁぁっ!」


「へっ?」


 凄まじい気配を感じて振り向くと────近付いて来たティナさんは大斧をフルスイングしてくる。


 いやいやいや、ここ街中だよ!?


「コウキぃぃぃっ! 逃すかぁぁぁっ!」


「こっちも!?」


 エリーさんは雷魔法をランダムに使いながら追い掛けて来る。


 街に被害がめっちゃ出てるから!?



「周りに迷惑かけたらダメですよ!?」



「「なら──大人しく捕まれっ!」」


「…………嫌です。なんか怖いし……」


 俺は前を向いて走り出す。


 そうだ。俺はもう後は振り向かない。


 これからは前を向いて行こう。


 だって────


 ────後ろばっかり見てても進まない。


 俺の中の記憶が無いなら────新しく思い出を作ろう。


 今回みたいな事がないようにそこそこ強くなって────


 ──そして──


 ────いつか彼女を作ってスローライフするんだっ!





 この後────俺はカミラさんによって捕まった。


 エリーさんとティナさんからは危ういながらも、体の調子が良いせいか逃げる事が可能だった────


 しかし────カミラさんは俺が通り抜ける時に倒れたんだ。


 体調が悪いと思って声をかけたら──


「捕まえた!」


 ──と言われてがっちりホールドされた。


 なんか前にも似たような事があった気がするが、罠だったんだろう。


「「でかしたっ!」」


 後から追い付いた2人にも捕まり。


 3人から怒られた。

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